エッセイ

短編小説の書き方

はじめに

2023年6月より、毎月1作品の短編小説を執筆することを目標にしてきました。結果として現時点(2024年2月)で、毎月最低1作品、余裕があるときには2作品の短編小説を執筆することができています。11作品を創作したことで、書き方のコツのようなものが掴めてきたため、整理のために今回、記事にまとめたいと思います。

なお、ここでいう短編小説とは、3,000~6,000文字程度の長さの小説を指します。

1. アイディアがわくまで待つ(最重要)

短編小説の場合、アイディア(ネタ)を思いついた時点で、小説の5割ができたようなものです。アイディアとは、「書きたい!」と思う描写のことで、例えば「炎を売る少女」や、「絶滅したといわれる最後のドラゴンを探して旅に出る騎士」などです。

※これらのアイディアはそれぞれ、『炎売りの少女』『ドラゴン退治』という作品になった。

書きたいと思う描写が思いついたら、忘れないうちにメモをして、それを基に妄想をふくらませていきます。妄想をしている間に、さらに書きたいと思う描写が増えたら、それも併せて書いておきます。ネタ帳を見返したときに、過去に自分がどんなことを書きたいと思っていたか、思い出せるようにするためです。

アイディアには良いものと、悪いものがあります。妄想するモチベーションを維持させてくれるアイディアが良いもの。逆にそれ以上妄想がふくらまないアイディアは悪いものです。妄想するモチベーションが維持できなければ、執筆はできないので、そういうアイディアはボツにします。ただし、時が経てば見方も変わり、「悪い」とレッテルを貼ったアイディアから妄想が膨らむかもしれないので、ネタ帳からは消しません。保留にしておきます。

良いアイディアは、意識して生み出そうとしても生まれません。執筆とは全く関係ないことをしているときに、ふっと生まれるアイディアが良いアイディアです。私は少し余裕がある日の仕事中に思いつくことが多いです。

しかしながら、アイディアを思いつくことに受動的になってはいけません。受動的なままだと、いつかアイディアの泉がつきてこれ以上思いつかない、という事態に陥りかねません(私はこの状態をもっとも恐れている)。そのため、自分からアイディアを探しにいきましょう。具体的には、新しい情報に触れて脳を刺激しましょう。

私の場合は、本を読んでいるときにアイディアを思いつくことがあります。本を読んでいるときに、「この文章いいな」「この考えをテーマに書いてみたいな」と思ったら、それはアイディアになりえます。これまで書いた作品のなかでは、以下2作品は分かりやすくその例が反映されています。

作品名アイディアの基となった文章
天空を旅する人びとのかがり火「ある遊牧民の間では、星々の光は、天空を旅する人びとの野営地のかがり火だと信じられている」
レア・オルバ姫の夢「(西洋中世期の)男性にとって結婚とは、財産にたまたま女性がついてくるという程度のものなのである」

いうまでもないことですが、アイディアを思いつくためだけではなく、執筆のためにもインプットは不可欠です。そのため普段から本を読むことをお勧めします。

なお、執筆する際の文体は自分が普段読んでいる本の文体に影響されるため、小説を読む場合には、自分が書きたいと思うジャンルの小説を読むとよいです。例えば、私は海外文学をよく読んでいるので、無意識に海外文学のような文体になります。どうやってもライトノベルのようなノリのよい文体にはできません。

まとめると、短編小説の執筆のためには、アイディアがわくまで待つことが大切ですが、ただ待つだけではアイディアはやってこないので、自分から積極的に取りにいく姿勢が大切です(なんか新卒社会人の研修みたいな言い回しになってきた)。

2. 登場人物を決める

浮かんだアイディアの妄想が膨らみ、物語にできそうだと思った段階で、物語に登場させる人物の属性を決めます。具体的には、人物の性別、年齢、おおまかな性格を決めます。

物語……というより人間の生活自体が、人と人との対話によって成り立つため、物語には最低2人の人物が登場します。そのため、最低2人の登場人物の属性を決める必要があります。

1人の登場人物をメインで書く場合には、主人公の属性を決めたあとに、脇役の属性を決めます。しかし、2人の登場人物を同程度にメインで扱い、2人の関係性を書きたい場合には、関係性を決めたあとに、それぞれの属性を決めていきます。

例えば、『エルネスタと水たまり』という作品は、2人の関係性を先に決めました。候補としては、①友達、②恋人、③きょうだい、の3種類で、結果としては③きょうだいの、兄と妹という関係にしました。2人の関係性や、それぞれの性別は最後までけっこう悩みました。

私は新しい物語を書くたびに新しいことに挑戦したいと思っています。なぜなら月次で短編小説を書くようになった理由は、執筆力を鍛えるためであり、前回と同じことをしても意味がないからです。そのため、なるべく今まで書いたことのない関係性や、登場人物の属性を書きたいと思っています。

個人的によい練習ができたと思った作品は、『どんぐりを集める女の子』です。主人公の属性はお爺さんで、その友達もお爺さんです。そしてその2人が幼い女の子に出会う、という話です。世の中に存在する物語は、おうおうにして成長物語であることが多く、そうなると「若者」が主人公になりがちです。しかし、この作品では、登場人物を「若者」とは異なる属性にできたことで満足でした。

なお、物語で書かれる2人の人間の関係性はおうおうにして「恋人」であることが多いため、この関係性もできれば避けたいと思って、あまり書かないようにしています(恋愛小説が苦手という理由もあるのだが)。

3. 結末を決める

アイディアが浮かんだ時点で、結末の候補はかなり絞られています。しかしそれでも複数のパターンがあるため、登場人物の属性や関係性を考えながら、結末を絞っていきます。ときには、登場人物を決める前に、結末が決まり、それに基づき登場人物の属性・関係性を決めることもあります。

例えば、『ドラゴン退治』は、結末が先に決まり、その後に主人公である騎士と、ドラゴンの属性・関係性を決めました。ドラゴンは当初、女性にしようと考えていましたが、そうすると騎士である主人公と恋愛関係ちっくになってしまうのではないか……それは(ありきたりなので)避けたい……となり、ドラゴンは男性になりました。結果として、主人公とドラゴンの関係性は、ユニークでよいものになったと個人的に思っています。

さて、結末を決めた時点で、物語の題名がおのずと定まります。私は題名には全くこだわりがなく、WordやExcelにファイル名をつけるようにシンプルにつけています。すなわち、その題名を見て物語の雰囲気を想像でき、他の作品と識別できれば何でもよいです。(しょせん短編小説だし、こだわってもカッコ悪いだけかなと思っている)

4. 固有名詞に名前をつける

短編小説の場合、結末が決まった時点で、小説の8割ができたようなものです。ほぼ完成ですね。おめでとうございます。あとは些細なことだと思ってもらって問題ありません。

さて、小説を書く際には、固有名詞に名前をつける作業が必要です。固有名詞とは、人名、国名などです。私は西洋を舞台にした物語を多く書くため、人名はたいていカタカナになります。以下に、いつも行っている名前のつけ方を記載します。

  1. 外国人の人名図鑑から、その人物の属性に合いそうな音の名前を選ぶ。
  2. 名前の意味を調べる。なぜなら名は人を表すからだ。その人物の属性にあてて違和感がなければ、その名前で決定。違和感があれば、ステップ1に戻る。

名前の意味はけっこう細かく確認しています。例えば、『チーズの上澄みをくれる友達』に登場するフレデリカの名前は「平和」を意味します。彼女は平和を望んでいるので、この名前が適切だと思いました。『エルネスタと水たまり』に登場するエルネスタの名前は「正直者」を意味します。彼女は嘘をつかないので、この名前が適切だと思いました。

西洋人の名前は、聖人由来のものも多いです。そのため、同じ名前の聖人がいる場合には、その聖人の性質にあてて違和感がないか確認しています。『ドラゴン退治』に登場するジョージの名前は、もちろん聖ゲオルギオスに由来しています(ゲオルギオスを英語読みするとジョージ)。なぜなら聖ゲオルギオスは、ドラゴン退治をした聖人だからです。

他によく使用する名前は、植物由来の名前です。これらの素朴な名前は、田舎に暮らしている人にぴったりで、『名もなき村の賢者』に登場するリリーの名前は「百合」を意味します。

5. 書き出しを決める

さて、ここまでのステップを踏んで、やっとWordファイルを起動し、物語を書きはじめます。

物語の書き出しは非常に重要です。なぜなら第一に、書き出しによって物語の世界観や文章のリズムが決まるからです。そして第二に、書き出しを読むことによって、読者はその物語の続きを読むか読まないかを判断するためです。

まず第一の点である、世界観や文章のリズムについてです。私の場合には、ここにきてはじめて、物語を一人称語りにするか、三人称語りにするか決めています。一人称語りの場合には、地の文は主人公が語る文章になります。具体的には、「ぼくは」「わたしは」という語りになります。三人称語りの場合には、地の文は登場人物の誰でもない、第三者が語る文章になります。具体的には「彼は」「彼女は」という語りになります。どちらがよりマッチするかは、その作品で表現したいことによって異なります。

次に第二の点である、読者ウケについてです。個人的に、読者ウケが獲得できるかどうかは、一段落目にかかっていると思います。人は一段落目を読んで心惹かれた場合には続きを読むし、そうでない場合には続きを読みません。

私が好きな一段落目は、「今からこういう話を語りますよ」とテーマを提示するものです。なぜなら、途中まで読んで(悪い意味で)期待したのと違う話だった……となると読者ががっかりしてしまうからです。仕事と同じで、相手の時間を使うからには、つまり読んでいただくからには、まず話の要点を伝えるのが重要かと思っています(あっ、また新卒研修ぽい)。

今まで書いた作品のなかで、この傾向が顕著に表れているのは、『砂漠に消えたガラス玉』と『レア・オルバ姫の夢』です。一段落目を読んだ時点で、前者は「提示された条件に合う男が娘と結ばれる話」と理解できます。後者は「不幸な結婚をしようとしている女の子がどう行動をするかという話」と理解できます。

6. ひたすら書く

短編小説の場合、書き出しが決まった時点で、小説の9割ができたようなものです。ほぼ完成ですね。おめでとうございます。あとの1割本当に些細なことだと思ってもらって問題ありません。すなわち、自分がえがいている結末に向かってひたすらに書くということです。

物語の最初(書き出し)と最後(結末)が決まっているのだから、あとは間を埋めるだけです。とはいえ、この間を埋める作業に実はいちばん時間がかかります。思ってもみなかった描写やセリフが出てくる点で、いちばん楽しい時間ですし、次の展開を考えなければならない点で、いちばん苦しい時間です。

筆がのるときは寝食を忘れてひたすらに書き、筆がのらないときにはTwitterを見たり、散歩に出かけたりします。そんなことを続けているといつの間にか物語が結末に近づいていることに気づき、「このあたりでもういい塩梅だな」という時点で切り上げます。

書き上げたあとには、何度も読み返して推敲します。余裕があるときには何度か音読をして、文章の流れが悪くないか、もっとよい言い回しがないかを考えます。そして「このあたりでもういい塩梅だな」と思う時点で切り上げ、短編小説の出来上がりです。

おわりに

今回は、個人的な短編小説の書き方を整理しました。振り返りをすると、以下の6ステップで短編小説を書くことができます。

  1. アイディアがわくまで待つ(最重要)
  2. 登場人物を決める
  3. 結末を決める
  4. 固有名詞に名前をつける
  5. 書き出しを決める
  6. ひたすら書く

そろそろ腰をすえて長編を書きたいな、と思うことが増えてきたので、今回、短編創作の手順を整理することで、そのヒントになることを得たいと思いました。整理して思ったのは、長編小説の場合には、おそらく「結末を決める」のあとに「プロットを組む」という手順が入るだろう、ということでした。

短編の場合には、文字数が少ないゆえに単純なストーリーなので、プロットを組む必要がありません。しかし長編の場合には、きちんとプロットを組まないと、山場がおかしなところにきたり、そもそも山場がないという事態になりかねません。長編小説はいちおう、今まで2回書いたことがありますが、読者に最後まで読んでもらうためには、プロットの組み立てが大切だと切に感じました。

今後も修練のために短編小説を定期的に書きつつ、おもしろい長編小説を書けるような力を身につけていきたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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