エッセイ

昔、人は「今日」の日付をどのように認知したか (2)

なぜ、王侯貴族や神職に就く者は日付を意識しなければならなかったのでしょう。

王侯貴族

王侯貴族の場合、現代の仕事で日付認識が重要なのと同じです。つまり、日付がなければ彼らの仕事(治世)にあたり支障がでました。たとえば、参加率100%の会合を開くには、いつ会合を開くのか、事前に周知していなければなりません。あるいは、裁判記録で、いつその者が罪を犯したのか、書きたいこともあったことでしょう。

神官

次に、神職に就く者の場合です。基本的に、文明化される以前の社会では、人びとは何らかの神話を生活のより所としています。西洋であれば、最初はギリシア・ローマ神話などの多神教、次にキリスト教。日本であれば、神道や仏教ですね。(なぜ神話が生活に必要だったのかは、別の機会に書きます)ですから神官はときに王と並ぶ権力の持ち主ですし、王がそのまま神官だった場合もあります。

神官の仕事において日付が重要なのは、それが祭事と関係していたためです。たとえばキリスト教の祭事の場合、紀元後381年にはすでに、12月25日がクリスマスと定められています(1)。古代ローマ時代末期にあたります。すると、祭事を正しく行うためには、正しい日付を知っていなければなりませんでした。クリスマスだと思っていた日が実は12月26日だった、ということになっては大変です。

正しい日付を知る工夫

では、日付を意識しなければならなかった古代人・中世人は、正しい日にち感覚を保つためにどのような工夫をしていたのでしょうか。以下、自分なりに推察してみました。

ケース① 星の位置からおおよその日付を知る

季節によって、影の長さや星の位置が異なるのを利用する方法です。たとえば、マヤ文明の遺跡の一つにチチェン・イッツァというピラミッドがあります。別名「暦のピラミッド」と呼ばれ、太陽光の当たり具合を見ることで、その日が1年のどの時期にあたるか、おおまかに知ることができます。とくに春分の日、秋分の日に光でククルカン(蛇の姿をした神)の胴体が浮かび上がるのは有名ですね。

ケース② 複数人で日付を管理する

たとえば小さい子供が誕生日を心待ちにするとき、カレンダーの過去日付に×印をつけていき、どれだけ誕生日に近づいているか確認することがありますね。これは非常にシンプルで原始的な日付管理法だと思います。×印が続いたあと、×印がついていない最初の日が「今日」にあたるわけです。

カレンダー(またはそれに似たもの)がこの世にできたとき、おそらく人はこの方法も利用していたのではないかと考えられます。その日のうち一回だけ、日にちに×印を描きます。×印をつける日にちは、「昨日」にあたります。ただし誤りのないよう、1人ではなく、複数人で管理を行います。

1人で管理をする場合を考えてみましたが、これは明らかにだめです。人はルーティーン化した作業を無意識にやってしまうので、毎日×印をつけていると、ある日こんなことが起きます。

時の番人「毎朝、昨日の日付に×印をつけることにしているけど、今朝はもう×印をつけたかな。それともつけなかったかな…」

2人で1日おきに、交互に×印をつけていく場合もやや心もとないです。

時の番人A「昨日はきみが×印をつけた?今日はぼくの番だろうか?」

時の番人B「どうだったかな。おとといつけた気もする」

なので、管理者は複数人必要と思われます。たとえば担当者を7人とし、曜日ごとに(その概念があればの話で、あくまで例です)担当を決めておくとか。月曜日に×印をつけるのはAさん、火曜日はBさん、水曜日はCさん……という風に。いくら忘れっぽい人でも、さすがに7日前の担当だったか昨日の担当だったかは、思い出せますね。また、自分の他に6人の証人がいるため、それぞれの記憶を合わせれば、正しい日にちを導きやすいです。

以上は、わたし独自の推察なので、実際にどうだったかは、分かりません。でも、こうだったのかな、と想像するのも歴史の楽しいところですね。

【参考文献】

  • 植田重雄『ヨーロッパの祭と伝承』講談社学術文庫、1994年

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