ある作業のスケジュールの節目を「マイルストン」と呼びます。
「マイルストン」の元の意味は、ローマ帝国皇帝が、1ローマ・マイルごとに街道に設置させた石です。標石によって、ローマからの距離、あるいはローマまでの距離が分かるようになっていました。ローマ帝国時代の街道として有名なアッピア街道には、現在でもそのマイルストーンがあります。
今回は、道の歴史的な役割について紹介します。
道とは
道は大地に初めから引かれているわけではありません。道とは、人が、あるいは動物が長い時をかけて作りあげた、目的地に辿り着くための最も効率のよい案内線です。
具体例を2つ挙げます。
まずわたしの個人的な体験です。学生時代、わたしは運動部に所属していて、グラウンドが使えない日は、学校近くの公園を練習場所として使っていました。公園には芝生に覆われた小高い丘があり、その頂上を目指して走る練習をしました。部員たちは何本も何本も、同じルートを走ります。
ある日、わたしは不思議なことに気づきました。部員たちが走るルートのとおりに、公園の芝生が剥げているのです。以前はたしかに、緑の草で覆われていたのに! このときわたしは、道ができる瞬間に立ち会ったのでした。
次に、ある建築家の話です。英語の文章問題として出題され、私はこの話を知りました。
ある建築家は、自分の建設した大学のキャンパスに道をつくりませんでした。なぜなら、建物から建物への最も効率の良いルートは、実際に歩いてみないと分からないからです。そこで建築家は、学生に一定期間、自由にキャンパス内を歩かせました。するとそのうち、学生が歩いた通りに道ができはじめました。何人もの足が地面を踏みしめるからです。そして建築家は、自然にできた道を舗装し、最も効率の良い道を持つキャンパスを完成させました。
このように、道とは生物が長い時をかけて作りあげた、目的地に辿り着くための最も効率のよい案内線なのです。
(2020年12月追記)
上記の大学はおそらく、カリフォルニア大学ですね。トム・ヒュームによるTEDにて紹介されています。
道の役割
道の第一の役割は、人を別の場所に移動させることです。
町と町、村と村は、必ず道で結ばれています。仮に結ばれていなかったとしたら、その町・村の住人はみんな、自分の土地から生涯一歩も外に踏み出さないということになります。また、宿を求める旅人に見つけられないくらい辺鄙な場所にあるということになります。つまり、外の町・村への人の往来がないことを意味します。
第二の役割は、物を運ぶことです。
物を運ぶ有名な道といえば、シルクロードです。遠隔地商業をするためには、道の存在は必須でした。その土地にない物を運んでこそ、その物に価値がでるからです。
第三の役割は、情報を運ぶことです。
例えば、あの国があの国に支配されたらしい、隣町のあの子が領主の三男に嫁いだらしい、という噂は道を通じてやってきます。恋人からの手紙も、道を通じて届けられます。道の情報を運ぶ役割は、ちょうど現代のネットワークと同じです。
以上のことをまとめると、人、物、情報など、すべての未知なるものは、道からやってきます。それらは道のない場所、たとえば干し草置き場からはやってきません。
道の役割については、『星の王子さま』で有名なサン=テグジュペリが深い洞察をしています。詳しくは『星の王子さま』だけではないサン=テグジュペリ①を参照してください。
道を舗装する理由
道は長い時をかけて自然に生まれるものですが、道の重要性を理解した国が、自然に生じた道を舗装することがあります。道を舗装すると、経済的効果と軍事的効果を得ることができます。
経済的効果については、先述した道の物を運ぶ役割に関連します。物を運びやすい道があるということは、他国から商人が往来するため、国が経済的に発展します。
軍事的効果については、具体例を交えて説明します。軍事的効果のために道を建設した一例が、冒頭で触れた、ローマ帝国のアッピア街道です。
道幅が広いと何が便利なのでしょうか。大人数が一度に通行できるので、軍隊の派遣スピードがあがります。このとき、道が硬くて丈夫だとどうでしょうか。馬車が通れます。それによって物資の輸送スピードがあがります。さらには、道の途中に、馬の取り換え所を設けたらどうでしょうか。常に元気な馬に乗っていられるので、情報の伝達スピードがあがります。
つまり、舗装された道を保持している国は、戦の際に軍事的に優位に立てるのです。そのような国は、大勢の兵士を短期間で戦地に送り、兵糧を短期間で届け、変化する情報を迅速にキャッチします。結果として、さまざまな国を支配下に置いて大帝国を築くことができます。
西暦四十三年のブリテン島の最終的な征服までに、ローマ人は全権力を握り、帝国を横切って建設された舗装道路網のおかげで、軍隊や官吏が敏速に、効率的に動き回れるようになった。
J.クラットン=ブロック著、清水雄次郎訳『図説 馬と人の文化史』原書房、1997年
おわりに
今回は道の歴史的な役割について説明しました。道とは、人工的に作る場合をのぞき、生物が長い時をかけて作りあげた、目的地に辿り着くための最も効率のよい案内線です。
道の役割は三つあります。第一に人を移動させる役割、第二に物を運ぶ役割、第三に情報を運ぶ役割です。国が道を舗装する場合、経済的効果と軍事的効果を得ることができます。一例として、ローマ帝国のアッピア街道を挙げました。
道の役割は非常に奥深いです。今回は軍事的な役割しか紹介できませんでした。文化的な役割については、西洋における道の文化史を参照してください。
以上、道の役割についてでした。
関連書籍
ロバート・ムーア著、岩崎晋也訳『トレイルズ (「道」と歩くことの哲学)』エイアンドエフ、2018年
マイケル・ハワード著、奥村房夫・奥村泰作訳『ヨーロッパ史における戦争』中公文庫、2013年