窓から飛び立つメリュジーヌ

『メリュジーヌ物語』概要

以下は、中世期の騎士道物語の1つである『メリュジーヌ物語』の概要です。騎士は湖で美女に出会うの記事で取り上げています。物語の舞台は現在のフランスです。

ポワエィエ伯エムリの従兄弟フォレ伯の三男であったレイモンダンは、エムリと共に狩りにでた。しかし、猪を狩ろうと奮闘しているうちに、誤ってエムリを突き殺してしまった。悲嘆にくれて森をさまよっていると、ある泉のほとりで美しい貴婦人、メリュジーヌに出会った。彼女はレイモンダンの犯した罪をすべて知っており、もしレイモンダンが二つの誓いを守るのなら、殺人の罪に関して彼を助け、家系の誰よりも高い名誉を彼にもたらすと言った。その二つの誓いとは、彼女と結婚することと、土曜日に彼女が何をしているか決して詮索しないことであった。

レイモンダンはその条件を快諾し、メリュジーヌと結婚した。メリュジーヌは新ポワティエ伯から譲りうけた領土に、不思議な早さで城を建て、それにリュジニャンという名前をつけた。自分の名前からとった名称である。その後も彼女は次々と都市を建て、10人の子供を産み、レイモンダンに繁栄をもたらした。子供たちは目が3つあったり、獅子の足が頬についていたりと、おのおの顔に奇怪な特徴をもっていたが、みな優秀であちこちの国王や伯になった。

ある日、兄弟のフォレ伯がやってきた。彼によれば、メリュジーヌが土曜日に姿を消す理由は、他の男と密通しているか、彼女が妖精であり、罪を償っているからだという(註:異教的存在である妖精も、罪をつぐなえばキリスト教徒になれた)。気になったレイモンダンはある土曜日、メリュジーヌとの誓いを破り、入浴中の彼女の姿を見てしまった。すると、メリュジーヌの下半身が蛇の姿になっていた。レイモンダンはすぐにその場をはなれ、メリュジーヌへの愛ゆえに、誓いを破ったことを後悔した。メリュジーヌはレイモンダンが誓いを破ったことに気づいたが、気づかなかったふりをした。彼女はレイモンダンの過ちを一度は許したのである。二人は以前と変わらない生活をおくった。

しかしある時、6番目の息子大歯のジョフロワが、マイユゼの修道院を弟のフロモンもろとも焼いたという知らせが入った。その際レイモンダンは怒りにまかせ、メリュジーヌを「蛇女」とののしり、ジョフロワの行為は彼女の血のせいだと責めたてた。衝撃をうけたメリュジーヌは、翼をもつ蛇に姿を変えた。そして、夫と一族に今後起こるだろう不幸を予告すると、窓から飛び去っていった。メリュジーヌはこの後たびたび、二人の幼子の面倒をみるために城へ戻ってきた。だが、レイモンダンが彼女に会うことは二度となかった。

全容を知りたい方は、1400年頃にクードレットがまとめた『西洋中世奇譚集成 妖精メリュジーヌ物語』が講談社から出版されています。

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