文学フリマ初出店の振り返り

2024/5/19(日)に開催された、文学フリマ東京38に出店してきました。同人誌をつくって売るという行為が初めてで、新しいことを色々と経験できました。そこで、同じように初めて出店する方の参考となるよう、振り返りを行いたいと思います。

以前、準備の様子を記事に書いています。こちらもよかったら参照ください。

※文学フリマとは……文学作品(同人誌)の展示即売会のことです。コミックマーケット(コミケ)やデザインフェスタ(デザフェス)の書籍版だと思ってもらえばイメージしやすいと思います。

目次

基本情報

配布するもの

今回販売した短編集と、フォロワーさんに配布した栞。

今回販売したのは、14編の短編を収録した『おとぎ話集』です。昨年6月より月に1-2作の頻度で書き、ブログの創作物語カテゴリにアップしていたもので、「眠る前に1話ずつ読みたい物語」をコンセプトにしています。製作費をかなり抑えて、500円で販売しました。

★本の価格設定で悩んでいる方は、以下記事を参照ください。

販売する本を何部用意するか悩みましたが、文学フリマ体験記のブログを読んでいると、皆さん口をそろえて「初出店では30部用意すれば十分(そんなに売れるはずないから)!」と言っていました。そこで少し余裕をもって35部用意しました。そのうち、見本誌として会場入り口に置く本が1冊なので、実際に売れるのは34冊となります。さらに、イベント前日に会った友人2人が欲しいと言ってくれて、2冊お買い上げいただいたため、実際に売れるのは32冊でした。

販売する本のほか、無料で配布する宣伝用ポストカードと、フォロワーさんに差し上げる栞を用意しました。「宣伝用のフリーペーパーを100部用意したけど全部なくなった」という話をいくつかネットで見たので、ポストカードは200枚用意しました。100枚と200枚の印刷料金が300円しか変わらなかったので、配りきれなくてもいいや!という勢いで。

無料で配布したポストカード。

出店の目的

先の記事でも記載した通り、コミケにしろデザフェスにしろ、即売会に出店する人は第一に、自分のファンを増やすために出店していると思われます。例えるなら、企業が「○○エクスポ」のような展示イベントに出店して、自社製品のことを多くの人に知ってもらうよう行動するのと同じです。つまり自分を売り込み、新規顧客を獲得する場として即売会を活用しているのです。

自分を宣伝するためには、浅い段階として「チラシ(フリーペーパー)を配り、どんなことをしているのか知ってもらう」という方法がありますが、深い段階として「本を買って読んでもらう」という方法があります。文学フリマに出店する多くの人が目指すのは、後者となります。そのため、「本がいくつ売れたか」というのは――単に自分の本が売れて嬉しいという感情だけではなく――「自分のファンを増やす」という目的がどれくらい達成できたかを測る、1つの大きな指標になるのです(※)。

※もちろん、本を買ってもらったからといって、その人がファンになるとは限らない(読んでがっかりすることもあるかもしれない)。しかしファンになる人を増やす確率を上げるためには、なるべく多くの人に本を届けることが重要になる。その人がレビューを書いてくれて他の人に波及して……ということもあるかもしれないし。

まとめると、出店の目的を達成するには、重要な順に以下2点となります。

  1. 本をなるべく多く売る
  2. フリーペーパーをなるべく多く配る

もちろん、イベントそのものを楽しむ、という目的もあるのですが、準備に時間をかけて、出店料や設営グッズなどもろもろの経費をかけて、となると、かけた時間やお金を上回るよう、なるべく実りの多い時間にしたいですよね。

宣伝編

文学フリマは即売会であり、その場で「いいな」と思った本を購入できる点が魅力の1つとなっています。しかし、東京開催などの大規模な会になると、全てのブースを見てまわるのは不可能に近いです(なにせ2000近くの出店がある)。そのため来場する方は、購入する本についてある程度の目ぼしをつけてきます。

目ぼしをつける方法は、主に①作品ジャンル、②WebカタログやSNSによる気になる作品のチェック、の2つかと思います。そのため、来場者の方に事前に興味を持ってもらえるような宣伝が重要になってきます。

文学フリマ事務局によると、今回の文学フリマ東京38では、12,283人が来場した。そのうち、売り子などの手伝いを含めた出店者が3,314人だったため、一般来場者は8,969人である。今回から東京開催は、入場料を1000円(18歳以下は無料)払う必要があるのだが、有料になってもこれだけの人が来場したとは驚きである。

作品ジャンル

文学フリマでは、作品ジャンルごとに分けて販売ブースが指定されます。例えば、私は今回「小説|ファンタジー・幻想文学」のジャンルで出店したので、私のブースの周りには、同じく「小説|ファンタジー・幻想文学」のジャンルの方がブースを構えています。これは来場者の方が、興味あるジャンルを効率的に回れるようにするための配慮です。

文学フリマの作品ジャンルは、大分類だけで「小説」「評論」「ノンフィクション」「詩歌」の4つあります。小分類も含めると、70近くの分類に分かれています(詳しいジャンルについては公式サイト参照)。

ジャンルについては、自己申告制なので、自分の作品が多くの人に手に取ってもらえそうなジャンルを、自分で考えて選ぶことができます。例えば私の場合は「ファンタジー・幻想文学」の他にも「純文学」「短編・掌編・ショートショート」の小説ジャンルで出店できそうです。

以前に一般来場者としてイベントを訪れたときも、今回も思ったのですが、「ファンタジー・幻想文学」のエリアでは人通りが少ない印象を受けました。おそらく、ファンタジー小説に愛好家が少ないのはなぜ?でも考察した通り、ファンタジーが好き、という人が市場で少ないからですね(幻想文学もかなりニッチな印象)。

最近わたしも、自分がファンタジーを好きなのか分からなくなってきました。というのも、ファンタジーに分類されている物語は、たしかにファンタジー要素はあるのですが、それで十分役割を果たしたとでもいいたげに、物語の内容が浅いんですよね……。たぶん私が好きなのは解釈のしがいがある純文学で、それに+αでファンタジー要素もあればさらに好み、という感じなのかもしれません。なぜなら、私が普段から読んでいる本といったら、全くファンタジーではなく、岩波文庫から出版されているような純文学ばかりです。

というわけで、次に出店する際には、「純文学」のジャンルで出店するのもありかもしれません。そうすれば、ファンタジー好きの人だけでなく、純文学好きの人に作品を手に取ってもらえる機会が増えると思います。

WebカタログやSNS

Webカタログとは、文学フリマが公式で用意してくれている、出店者と作品が一覧でのっている、Web上で閲覧できるカタログのことです。このカタログはイベントの1カ月前から公表されるため、事前にカタログで気になる作品の目ぼしをつけから、会場に訪れる人は多いです。しかも、気になる出店者を「お気に入り」に登録できる機能もついているので、当日まわるお店一覧を、このカタログで管理している人は多いと思います。

Webカタログでは、作品ジャンル別に絞り込みができる他、フリーワードで検索することもできます。そのため、(作品ジャンルの重要性は先述した通りで)出店者紹介にどのような用語を入れるかはよく考える必要があります。私は出店者紹介に以下の文章をのせて、作品ごとに設定できる作品詳細ページには、短編の冒頭を試し読みとして3つのせました。

神話や歴史やファンタジーが好きです。眠る前に読みたい物語をテーマにした短編集を販売します。バビロン、エフェソス、アレクサンドリアなどの実在都市名が出てくることもあれば、架空の国名が出てくることもあります。わくわくしたり、切なかったり、勇気がでたり、あたたかかったりします。

実は出店者は、自分がいくつお気に入り登録をもらっているか、確認することができます(ユーザーは特定できない)。私は事前に7件のお気に入り登録をいただいていました。確認したときにびっくりして、「7人もの方が興味を持ってくれている!」と嬉しかったです。初出店にしては、多くの人に興味をもってもらえたほうなのかもしれません。

事前宣伝としては、Webカタログのほかに、SNSを活用するのも効果的な印象でした。「#文学フリマ東京」のハッシュタグがつけられた投稿一覧を見て、面白そうな本を探す人は、一程度いる印象です。私もそのハッシュタグで気になる本をたくさん見つけました(一人で出店していたので買う暇はなかったのですが……)。

実際、私の本を購入してくれた人のなかにも、「X(Twitter)の投稿を見て、気になって買いに来ました」という方がいらっしゃいました。他にも、「ブログで読んで面白かったので」と買いにきてくださった方もいました。Webカタログにもブログのリンクを貼っていたので、Webカタログからお知りになったのか、それともフォロワーさんだったのか分かりませんが(もしそうでしたら気づけずごめんなさい!)、本の内容を読める状態にしておくのも有効なのだなと思いました。

設営編

文学フリマの開催時間は12:00-17:00の5時間となります。同じ即売会である、デザインフェスタが10:00-18:00の一日開催なのに比べると、案外短めですよね。しかし、即売会初心者にとっては、出店のハードルが低くありがたいです。

文学フリマの出店者はブースの設営のため、開催前の10:30から入場することができます。私はシンプルな設営を予定していたので、1時間あれば十分準備できるだろう、と思い10:30ごろ最寄り駅に着くように行きました。するとびっくり! 出店者ではない一般入場の人が、もう列を作って並んでいました……。有名な作家さんの同人誌とか、お目当ての本があるのでしょうね。

長机の半分が1ブース分となるので、同じ机を使う隣の方にはきちんと挨拶しないと、とドキドキしながら割り当てられた場所に向かいました。隣の方はすでに準備を始めていたのですが、とても優しそうな方でほっとしました。イベント中も人がまばらな時など、ちょこちょこ雑談させていただき、緊張がほぐれました。

さて、設営のレイアウトはこんな感じになりました。

ポイントは、①一面イラストのポスターで目立たせたこと、②値札をとにかくでかくしたことです。

①について、買い手として文学フリマを回ったときに、目が文字ではなくビジュアルに引き寄せられたためです。販売品について興味をもってもらうには、まず「足を止めてもらう」ことに尽きます。これはそのための客寄せポスターとなります。よく、同じサイズの紙に、販売商品一覧をのせている出店者の方がいますが、通り過ぎる一瞬でそこまで小さな文字や画像は見えないんですよね。せっかく大きな紙を使うのなら、目玉のビジュアルを全面に出すのが効果的かと思います。ちなみに、こちらのポスターはコンビニのA3カラープリントで80円なので、気軽に用意できます。

②について、買い手として文学フリマを回った時に、値札が小さくて不便したためです。いくらなのか分からないと、買うかどうかの(さらにはそのブースに立ち寄るかどうかの)判断ができません。私の場合、これだけ分かりやすく提示していたので、「いくらですか?」と聞かれることは皆無でした。皆さんが安心してお買い物できていればよいなと思います。

敷布(テーブルクロス)については、設営にぴったりの90×135cmのサイズのものをネットで探して注文しました。色をネイビーにしたのですが、どう見てもネイビーではないですよね(笑)。グレーか、灰色がかった緑かな。これはこれで落ち着いていていいかなと思ったので、返品しませんでした。

設営自体は、30分程度で終わったので、残りの時間はお手洗いに行ったり、早めのお昼ごはん(その場で食べれる軽いもの)を食べたりしていました。イベントが開始してから2時間は人の往来が途切れなかったので、お昼ご飯は先に食べていて正解でした。

設営中はかなりむし暑くて(空調は効いておらず、扉を開け放しているだけ)、暑さに乗り切れるか心配でしたが、みんなが準備で動いていたから会場内の温度が高くなっていただけのようで、あとは半袖で心地よく過ごせました。とはいえ、25度を超える予報の場合には、熱中症対策をしっかりしていったほうがよいです。

販売編

さて、前述した通り、私は販売できる本として32冊用意していました。このうち、イベント開催中に売れた本は計19冊でした!! 一冊も売れなかったらどうしよう……と不安だったので、これほどの部数が売れてとても嬉しいです。

お買い上げいただいた19人のうち、2人が友人で、2人がTwitterフォロワーさんでした(名乗らずにそっとお帰りになった隠れフォロワーさんはもっといたかも。隠れフォロワーさんもありがとうございます)。

ブースを訪問してくださる方の傾向として、2パターンに分けられると思いました。1パターン目は、めがけるようにブースに来てくださる方、2パターン目は、通りすがりに設営の様子が気になり(じーっとこちらを見ている)、足を止めてくださる方。どちらのパターンも同じくらいの割合でいらっしゃいました。

めがけるようにブースに来てくださる方は、事前にWebカタログやSNS、あるいは会場入り口にある見本誌コーナーで本の内容を確認しており、気になって訪問してくれた方だと思います。ほんとうに嬉しいです。このような方々はほとんどの方が本を購入してくれました。

通りすがりに足を止めてくださる方は、イラストか本のタイトル『おとぎ話集』を見て気になっているようでした。イラストについて、多くの方から「かわいいですね」と言っていただき、恐れ多くも評判がよかったもようです。女性だけでなく、何人かの男性からも言われて、「男性でもかわいいと思うのか」と意外でした。

表紙に自分で描いた絵を使っているのは低コストで表紙を制作するためであり(詳しくは準備編の記事を参照)、恥を忍んで使っているのですが、褒められると嬉しいですね……えへへ。私は絵を描く行為に対し複雑な想いがありますが(詳しくは「中世ヨーロッパの道」100記事目記念を参照)、自分の絵に対する肯定感が少し上がりました。

通りすがりに足を止めてくださる方のうち、ほとんどの方が見本として置いていた本を手に取ってくれました(やはり見本を置いておくのは大事)。見本を読んで、買ってくださる方がそのうち半分くらいでした。手に取ってくれるだけでも嬉しいのに、買ってくれる人がそのうち半分もいるのか……!ととても驚きました。

一方で、200枚用意したフリーペーパーはというと、全部で20枚くらいしか配布できませんでした(泣)。たぶん、「100枚配布しきった」という人は、積極的に呼び込みの声かけをしているのでしょうね。私はとても控えめに座っていたので、視線などで「あの人、こちらの様子が気になるみたい」と思った人にしか、渡せませんでした。

ポストカードを渡すときに「え!もらっていいんですか?」と言う方が何人かいたので、無料配布だと気づかなかった人も多いようです。やはり積極的に声をかけたほうがいいのかな、でも周りもそんな雰囲気じゃなかったし、悩ましいです。

時間帯別の本の売れ行きとしては、12:00-14:00の間に19冊のうち、ほとんどが売れました。その後は人がまばらで、16時ごろにつづけて3冊ほど売れました。お目当ての本がある人はだいたい前半に来るので、前半に人が多く、前半が勝負なのかもしれませんね。

おわりに

今回は、文学フリマ初出店に際する振り返りを行いました。

本がぜんぜん売れない場合には、あまり楽しくなかったのでしょうが、おかげさまでたくさんの本が売れたため、とても楽しく過ごせました。立ち寄っていただいた皆様に感謝です。本当にありがとうございました。

少なくとも、また別の文学フリマに出店したい!という気持ちでいるため、これはもう成功といってよいのではないかと思います。

Twitterでも発信しましたが、香川で初開催の文学フリマに当選したため、次回は文学フリマ香川に出店します。詳細は以下の通りです。販売品は今回と同じになる予定です。

近くにお住まいのフォロワーさんはぜひ遊びにきてください♪ 無料栞もまだまだたくさんあります。

文学フリマ香川1の振り返り記事は以下です。

ところで、今回販売した『おとぎ話集』には「I」とついていますね。これは「Ⅱ」をつくるように自分の首を絞めるためにつけました~……。文学フリマ東京の準備で忙しく、月いち短編をお休みしていたので、そろそろ再開したいと思っています。最近、次の本の表紙にできそうな絵も描き上げたので、もうぜひ、次を作りたいですね……!

以上です。お読みいただきありがとうございました。

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