最近はやりのスマートスピーカー。わたしの周りにも、グーグルホームを持っている友人が何人かいます。今回の記事では、「耳から得る情報」として、スマートスピーカーと口頭文化を関連づけて考えてみます。
スマートスピーカーとは
スマートスピーカーとは、AI機能が搭載されたスピーカーのことで、声をかけるだけで様々なアクションを起こしてくれます。たとえば「今日の天気は?」「〇〇駅行きの電車の時間は?」と訊けば、「晴れです」「7時35分です」などと答えてくれます。また、エンターテイメント機能も搭載されており、「音楽をかけて」といえば、スピーカー本体から音楽を流してくれます。
利点
何が便利かといえば、声だけで反応してくれる点です。忙しい朝、料理中で手が離せないとき、一声かけるだけで調べものをしてくれたり、その日のニュースを読み上げてくれたりします。グーグル社の製品「グーグルホーム」の場合、「OK, Google」との人間からの呼びかけがスピーカー起動の契機となります。その後、スピーカーにしてほしいことを指示できます。アメリカでは普及率が20%に達しています。
問題点
便利なはずのスマートスピーカー、アメリカでの人気に対し、日本では普及率が2%と、反応が芳しくありません。なにが原因なのか考えるため、グーグルホームをもつ友人の意見をきいてみました。「一言で済むような簡単な情報を聞くにはスピーカーは便利だが、複雑な情報については文字で見るほうが便利」とのことでした。
友人は、料理の例を挙げました。慣れていない料理をつくる際、一度のレシピ確認で料理法を覚えられる人はいません。火にかける時間や、調味料の分量など、忘れては何度も確認する作業が必要です。つまりレシピの確認をするとき、音声で聞くよりも、文字を読むほうが手っ取り早いと友人は言っているのです。
想像してみてください。あなたは「OK, Google. チョコチップクッキーの作り方を教えて」と呼びかけます。するとグーグルホームは答えます。「まずは次に言う材料を用意してください。小麦粉50g、砂糖30g、バター25g、チョコレート20g……」
とてもじゃないですが覚えられません。書面で用意してくれ、となります。
耳からの情報
しかし文字文化が定着する前、人は耳から情報を得るのが当たり前でした。文字文化の歴史は実はまだ非常に短く、日本における識字率が上昇しはじめたのは、義務教育が始まった明治時代のことです。西欧においては印刷技術が広まった16世紀のことです。
文字文化に対応する文化は、口頭文化といいます。生きるために必要な知識を、次の世代に口頭で語り継ぐ文化です。この文化の産物として、わたしたちは昔話や神話、歌を知っています。たとえばグリム童話は、グリム兄弟が各地をまわって集めた昔話の集成です。文字が社会に定着する前、人は当然の行為として耳から情報を得ていたのです。
スマートスピーカーは定着するのか
知るべき情報が少なかった時代、つまり近代以前、わたしたちは文字を必要としませんでした。というより、文字がなかったからこそ、最低限の情報を覚えておくだけで事足りました。情報を書き残す手段がないということは、情報を記憶にとどめるしかないということです。人間が記憶できる量は限られていますから、おのずと重要でない情報は選別され消えていきます。
しかし、文字を使うようになった現代、情報をいくらでも書面に、あるいはデータとして残すことができます。重要な情報は頭で覚えもしますが、もちろん念には念を重ねて、文字におこして残しておきます。文字で残した途端、人は気が抜けて急に覚えるのをやめてしまいます。プレゼンテーション中にスクリプトをちらとでも見てしまうと、その後スクリプトを見ずには話せなくなってしまうのと似ていますね。
ですからもはや重要な情報、生きるために知っておくべき情報(人によって違いますが、たとえば税金の知識だったり投資の知識だったり)は、自らの記憶ではなく書面やデータで残すようになっています。つまり現代人が耳から入れて書き残さない情報は、忘れても構わない情報です。すると、スマートスピーカーが複雑な情報を扱えないという、先の友人の意見は理にかなっています。
つまり、スマートスピーカーは生活の必需品ではないということです。より重要で複雑な情報を知るなら、明らかにスマートフォンやパソコンが便利です。そのため、スマートスピーカーは音楽をかけるなどの、娯楽としての活用範囲にとどまると考えられます。よって、スマートスピーカーならではの価値が高まらない限り、購入者は新しい物好きで、お金に多少余裕がある人にとどまりそうです。
以上、スマートスピーカーと口頭文化を関連づけて考えてみました。