はじめに
歴史学における時代区分は、「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」で表されます。
紛らわしいのは近世と近代です。近代と言うには言い過ぎだけれど、明らかに中世とは違う。そんな中間時代を近世と呼びます。西洋では具体的には、ルネサンス、宗教革命、大航海時代ごろが近世です(15、16世紀~17、18世紀)。
何をもってある時期をその時代区分にあてはめるのか、様々な側面からの考え方があります。今回は、西洋における中世と近世の違いについて、絵画の題材の変遷を例にご紹介します。結論から言うと、中世はキリスト教の時代で、近世はキリスト教の権威が失墜しはじめた時代でした。
中世―キリスト教
これまで様々な記事で触れてきましたが、中世とは、キリスト教(ローマ・カトリック教会)の時代でした。一般に、中世は西ローマ帝国の滅亡(476年)からの時代を指します。コンスタンティヌス帝のミラノ勅令(313年)から公認宗教となったキリスト教は、その頃から力を持ちはじめました。西洋人がキリスト教に改宗した理由は、西洋になぜキリスト教が浸透したのかを参照してください。
中世時代は、絵画といえば基本的にキリスト教に関連した絵のみでした。当時の絵画は、観て楽しむために描かれたものではありません。神への賛美として、あるいは文字の読めない平民に聖書の内容を伝えるために、描かれたものでした。当時は画材も非常に高価だったはずですから、目的のない絵=キリスト教に無関連の絵が描かれることはありませんでした。例えば、遠景は空の色を映すで、風景画も最初は宗教画として描かれたことに触れました。
キリスト教は中世に最盛期を誇り、中世の終わりとともに、権威を失いはじめます。人々が自由を求め、ローマ・カトリック教会の支配から抜け出し始めると、絵画に描かれる題材も変化しました。
近世のはじまり―ルネサンス
近世のはじまりとして、よく引き合いに出されるのがルネサンスです。ルネサンスとは、14~16世紀に起きた、ギリシア・ローマの文化を復興しようとする文化運動のことです。なぜルネサンスが近世の始まりを顕著に表すかというと、キリスト教から見た「異教」の神々が絵画に描かれるからです。
ルネサンス期に描かれた代表的な絵として、ボッティチェリの『プリマヴェーラ(春)』があります。愛の女神アフロディーテや、春の女神フローラなど、古代ギリシアと古代ローマの神々が描かれています。
ボッティチェリの作品として他に有名なのは、『ヴィーナスの誕生』です。この絵に描かれたヴィーナスもギリシア神話の女神です。
もちろん当時の人々は、中世から変わらずキリスト教徒です。ですが、人々が「異教」の神々を絵画に表現できるようになったという点で、ルネサンスは新しい時代の到来と言えます。ルネサンス期には、他にもキリスト教に無関係な数多くの絵画が描かれました。最も有名なのはレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』ですね。
冒頭で、中世はキリスト教の時代で、近世はキリスト教の権威が失墜しはじめた時代だと説明しました。上記で説明してきたように、私たちはそれを、絵画の題材の変遷から知ることができるのです。
おわりに
今回は西洋における中世と近世の違いを、絵画の題材の変遷を例にご紹介しました。中世と近世の大きな違いは、キリスト教が権威をふるっているか、そうではないかです。
中世期には絵画といえばキリスト教の宗教画でした。しかしルネサンスが起こる(近世になる)と、「異教」の神々など、それまでの社会では考えられない題材が絵に描かれました。私たちは絵画の題材の変遷を例に、中世はキリスト教の時代で、近世は人々がキリスト教に支配から抜け出した時代であると知ることができます。
以上、絵画から知る西洋の中世と近世の違いでした。