エッセイ

昔、人は「今日」の日付をどのように認知したか (1)

最近、気になったことがあります。

それは、その日の日付を、昔の人はどのように知っていたのか、ということです。

たとえば、現代であれば「今日」が何日か確認するのは簡単です。

書類を書くとき、よくやりますね。

「あれ、今日は何日だったかな…(スマホを見る)。ああ、9月〇日だ」

でも、スマホもTVもPCもなかったら?

人に尋ねる?では尋ねてみましょうか。

わたし「今日は9月の何日かな」

Aさん「昨日が9日だったから、10日かな」

Bさん「うそだ、昨日は8日だった気がする。今日は9日じゃないかな」

Cさん「ぼくは昨日、日記の日付に7日と書いた。だから今日は8日だよ」

皆わたしを騙したいわけではありません。

正しい日付を一生懸命つたえようとしてくれています。

でも、どれが正しいか全く分かりません。

答え合わせをしようにも、正しい時を刻むデジタル製品が存在しませんから。

紙のカレンダーで確認すればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、

見たとしても先ほどの会話と同じような状況に陥ってしまいます。

スマホのカレンダーと違って、紙のカレンダーに「今日」の日付に色はついていませんから。

もちろん、デジタル製品がなくても、だいたいの日付は分かりますね。

先ほどの会話なら、候補は8日、9日、10日のどれか。

そこから多数決をとって、いちばん票の多い日付が今日の日付だろう、ということになります。

あるいは、権力者の言った日付が今日の日付になるかもしれませんね。

社長が「今日は9月9日だ」と言えば、社員は、今日は9月9日と思って

(実際には思ってなくても)仕事します。

今回わたしは、西洋古代や中世の時代には、

こうした日付の認知齟齬が頻繁に起きていたのではないか、と想像しました。

(印刷技術のあった近世・近代は除きます。新聞等の情報媒体によって、少なくとも日付の認知齟齬は生まれません。その日付が正しいにせよ、誤っているにせよ、同じ日付が認知されます)

共同体(国や町)の人数が少なければ少ないほど、日付が分からなくなったときに大変です。

日付の多数決をしても、多数派と少数派の人数比がそこまで大きく変わらないかもしれません。

むろん、時代が古くなるほど共同体の人数は少ないです。

さらには、日付を意識して暮らす人がそもそも少なかったはずです。

当時の農民にとって今日は何月何日か、なんて情報は無益です。

日々の天候を読み取り、染みついた季節感と長年の勘で生きています。

ですから、仲間がほとんどいない、日付を意識しなければならなかった人にとっては、

さぞ不便な世の中だったことでしょう。

具体的には、王侯貴族や、神職に就く者です。

なぜ、彼らは日付を意識しなければならなかったのか?

またどのように「今日」の日付を認知していたのか、考えてみます。

次回につづきます。

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