はじめに
7月上旬のフィリピン旅行記その5、最終回です。前回は、マクタン島沖合にある島での滞在についてつづりました。
今回は、島滞在のつづきと、セブでの観光です。
お祭りかと思ったら
島に泊まる夜、エアコンがないため、窓を全開にし、天井のファンを回したまま横になりました。垣根で仕切られていますが、ロッジのすぐ横は村人たちの住居のようで、夜にもかかわらず、雄鶏がひかえめに鳴いています。
眠れないので「昔話でもしようか」と父母に振ってみますが、乗り気ではないらしく、私が勝手に西洋の昔話を紹介しました。「母屋で飼われている犬のなかに、イタリアン・グレイハウンドがいるけれど、西洋のとある地域ではグレイハウンドの信仰があってね……」という感じで。
そういえば、犬のなかで一番序列が高いのは、島の外からやってきた犬みたいです。島に住んでいる生き物は、犬も鶏も人も、みんな穏やかな性格をしていて、争い事を好みません(だから島の外に闘鶏をしにいっても、島の鶏はだいたい負ける)。日本人も、島国の民族なので大陸の人と比べると穏やかですが、その傾向は暮らす島が小さければ小さいほど顕著になるのかもしれません。
そんなこんなで眠りにつきましたが、夜中に目が覚めました。天井のファンが止まっているようで、やや暑いです。調子が悪いのかと思って、スイッチを切り、もう一度オンにしましたが、ファンは動きません。そういえば、ソーラー発電の電気はすぐになくなると言っていたっけ。つまり電気切れということです。
その後、トイレのタンクにも水が溜まらなくなってしまったため、水を溜めるために電気を使っていたのでしょう。仕方ないので、あまり水を流さないようにして、流したいときには、バケツでタンクに水を注いで対応しました。「電気が止まることもある」ということを見越して、手動でも対応できるよう、あらゆるモノが単純なつくりになっているため、不思議と不便には感じませんでした。例えば、日本製の入り組んだモノと違って、トイレのタンクは蓋を開ければただの容器なわけです。
島では洗濯する際もタライを使って、手で行います。このような科学エネルギーに頼らない暮らしが、真に「シンプルな暮らし」なのだろうな、と思いました。あらゆる先進諸国において、洗濯機をはじめとする家電製品が普及したおかげで、女性の社会進出が進んだ、ということは確かです。しかし男性も女性も、資本主義に基づいた労働を強いられるようになって、昔より不幸になったかもしれません。
ファンが止まったまま眠りについたあと、朝の5時ごろに、外の騒がしさに目が覚めました。聞き耳を立てていると、お祭りをやっているのかな? と思うような歓声が聞こえてきます。最初は、人の声だと思っていましたが、意識がはっきりしてくると、それが鶏の声であることが分かりました。村の何十羽もの雄鶏が、思い思いに鳴いているのです。しかし、やかましい感じではなく、透き通った美しい声でした。
島のアクティビティ
島では、滞在者向けのアクティビティが用意されています。そこで一番メジャーな、シュノーケリングをしてみることにしました。昨日から滞在している、S氏の友人夫婦の女性も参加するといいます。その方は身体つきから毎日運動していることがうかがえる方で、昨日も浜辺でランニングをしていました。ご自身のゴーグルや、足に装着する水かき(フィンと呼ぶのかな)も持っていらっしゃいました。
一方の私は、泳ぐことが大学生ぶりだと思います。とりあえず持っている水着をキャリーケースに突っ込んで来ましたが、この水着も大学生の頃に買ったやつか……。恥ずかしい~と思いながらモーターボートに乗り、沖合に出ます。島民の方から渡されたライフジャケットと、空気を吸う管つきのゴーグルを装着して、水に入ります。
ところが、ゴーグルの装着方法が悪いのか、顔を水面につけると、海水が入ってきてしまいます(もちろん息もできない)。その様子を見たアクティブ女性が、ゴーグルの付け方を丁寧に教えてくれました。鼻ごとゴーグルを装着して、管の入口にある突起を前歯で噛んで固定することがポイントのようです。言われた通りにすると、うまく装着できました!
水深は4メートルくらいで、(ライフジャケットがあるので)ぷかぷかと浮きながら、水中を眺めます。聞いた通り、サンゴは思ったよりスカスカでしたが、多種多様な魚が泳いでいました! 青いヒトデもいました。女性はとてもアクティブに水中にもぐったり、魚を撮影したりしていました。かっこいい……!
陸に戻ると、母がココナッツオイルづくりのアクティビティをしていました。繰り出したココナッツの中身を、火にかけていると、だんだん油が分離してくるようです。残った固形物は揚げ物のようになり、食べてみるとココナッツ味のクッキーのような味でした。子供のおやつになるそうです。
昼食をいただいた後、島の方々に別れの挨拶をして、モーターボートに乗りました。雲行きが怪しく、ボートに乗っている間に雨が降りそうでしたが、天気は持ちこたえました。
陸に到着後、セブ島のホテルに向かいました。その日はホテルに併設していたカフェにて、軽い夕食を取りました。
エアコンが利き過ぎて寒かったため、温かいお茶が飲みたいと思い、「ミルクティ」という商品を頼んだところ、タピオカミルクティが出てきました。どうりでコーヒーとずいぶん値段が違うと思ったよ……。「砂糖なし」と伝えていたため、甘くないのが救いでした。
マニラでは節約のため、ホテルには3人同室で泊まりましたが、今回は2部屋に分かれました。母と私は同室で、2人で使用していることを抜きにしても、マニラよりも部屋面積が広くて快適でした。
セブ島の観光
次の日の午前は、父に案内してもらいながら、セブ島の観光をしました。
まずはマゼラン・クロスと呼ばれる、1521年に建てられた木製の十字架を見に行きました。この十字架は、フィリピン最初のキリスト教徒となった、フマボン王とファナ女王、それに400人の臣下たちが洗礼を受けた場所に、マゼランが建てたものだそうです。フィリピンのキリスト教徒にとっては聖地であり、多くの人で賑わっていました。シスターもたくさんいました。
つづいて、マゼラン・クロスに隣接しているフィリピン最古の教会、サント・ニーニョ教会に行きました。「サント・ニーニョ」は幼きイエスのことを指します。前の記事でも「子供の神様」のことを紹介しましたが、フィリピン人にとって最も親しみのある聖なる存在のようです。
つづいて、教会から1kmほど離れた場所にある、サン・ペドロ要塞に行きました。フィリピン最古の要塞で、1565年に建設が始まりました。要塞の素材は主にサンゴなので、建設するのに時間がかかり、完成までに約200年を要しました。上から見ると、要塞は三角形になっています。
サンゴといえば、フィリピンではダイナマイト漁が行われています。ダイナマイト漁とは、水中でダイナマイトを爆発させる衝撃で、殺したり気絶させたりした魚を獲る漁のことを指します。そのせいで今も多くのサンゴが失われています。
短期的には、手軽にたくさん魚が獲れるように見えますが、長期的には、破壊されたサンゴには魚がやってこないため、その場所で魚が獲れなくなってしまいます。豊かなサンゴ礁が、豊かな魚の恵みをもたらすのです。
買い物
観光をしたあと、父は仕事に向かい、母と私はショッピングモールに向かいました。日本へのお土産を買うためです。
セブ島の定番土産といえばドライマンゴーで、とくにおいしいのが、カルディにも売っている7Dのドライマンゴーです。こちらでは200gが700円ほどでした。父が日本の取引先に持っていく分も含めて、40袋くらい買いました……密輸かよ。
ショッピングモールには、デパートのようなお店もあれば、通路に止めたワゴン車で販売している、地元の人のお店もありました。地元の人のお店では、値札が張られておらず、交渉して買うスタイルになっているようです。闘鶏の鶏の置物が気になって見ていると、小さいものが800ペソ、大きいものが1500ペソ、と言われます(日本円に直すときは×3をする)。
大きいほうが存在感があってかわいいな、茶色も白もかわいくて選べないな、と言っていると、「いっそ2羽並べて飾ったら、闘鶏しているみたいでよいのでは」と母が言います。するとお姉さん(私と同い年くらい)が、2羽買う場合は、割引して1羽あたり1100ペソでよいといいます。
よし買った! となったところで、クレジットカードが使えないことが分かりました。そのため、両替所に行かなければならなかったのですが、客を逃したくないお姉さんが、両替所まで案内してくれました(並んでいる間も、スマホを見ながらずっと待っていた)。
それもそのはず、首都マニラの1日の最低賃金は645ペソ(約1770円)だから、私が鶏を2羽買うと、お姉さんには約3日分の収入が入るわけです。
無事両替を終えて売り場に戻るとき、「お父さんへのお土産?」と訊かれました。フィリピンでは闘鶏といえば男性(お父さん)がするものなので、そのような発想になるのでしょう。「ううん、友達へのお土産。なぜなら友達は……」養鶏をやっている、と言いたかったのですが、単語が分からず、お姉さんが「農場(farm)を持っているの?」と訊きます。「そうそう! 農場を持っている」と言うと、そうなの、と納得していました。
その後、別のワゴン車で丸い籠バック(800ペソ)と、デパートで可愛いなと思った服も買いました。丸い籠バックからは、煙でいぶしたような匂いがするのだけれど、製作過程でいぶしながら曲げてつくるのでしょうか。母もココナッツの殻でつくった小物入れ等、いろいろ買っていました。
ホテルでのんびり
タクシーでホテルに戻るときに、ちょうど雨が降ってきました。この日の夜も父のビジネスパートナーの方と食事をすることになっており、ホテルで待ち合わせしたのですが、豪雨で辿りつくのが大変だったようです。
ビジネスパートナーの方は女性で、その娘さんもいらっしゃっていました。娘さんは私が新卒で働いていた会社と同じ会社に勤めているようで、話が合うだろうということで来てくださったようです。主に会社の悪口で盛り上がりました(笑)。
今回も、観光業をめぐるいろんな話を聞けて、興味深かったです。近頃は「モンスター・ペアレント」ならず「モンスター・高校生」がいるそうです。つまり、親ではなく学生のほうがモンスタークレーマーになっているという話を聞きました。高校生を養護するつもりで私は、「そもそも、親がそういう態度だから子供が真似するんだ」と言ってみましたが、その瞬間に(それもやばい)ということに全員が気づいてしまい、しーーん……となりました。
「そのうち、そんな態度は社会に通用しないということに気づくよ」と母が言っていましたが、そうだろうか、と心配になりました。なぜなら、そのようなモンスターな態度がまかり通ってしまう社会だから、「カスタマー・ハラスメント」などという用語が出てきたのです。
カスタマー・ハラスメントが問題視されるようになった要因として、お客様第一主義が過剰すぎた、と一般的に言われています。しかし私は、他者とのつながりが希薄になったからだと考えています。
もともと人間は、村などの小さな共同体で暮らしていました。そのような全員が顔見知りで、互いに助け合っている状況では、相手の恨みを買う行動は、のちの自分の不利益になるため、できませんでした。
しかし近代になって村社会が崩壊すると、サービスを提供してくれる人が、自分の私生活にまったく接点を持たなくなりました。そうなると「この人とはこの後一生関わらないから、失礼な態度を取ったり、過剰な要求をしたりしても問題ない」という邪な思考になりやすいと思います。
私は、そのような思考をしている人には、まわりまわって不利益が生じると思います。人の縁とは数奇なもので、そうしてかつて自分が失礼な態度をとった人が、自分の顧客になったり、仕事仲間になったりするものです。まさに「自業自得」ですね。
娘さんが母と私に、手作りのキーホルダーをくれました。海を模したレジン製のキーホルダーで、ゆくゆくはリゾート地にお土産として置いてもらうことを構想しているそうです。これは「海」シリーズで、もう一つ「山」シリーズとして、山に咲くお花を閉じ込めた作品もつくっているそうです。同世代の方が自分の好きなことをビジネスにしようと頑張っていらっしゃる姿を見て、私も頑張りたいな、と思いました。ぜひうまくいってほしいです。
おわりに
今回はフィリピン旅その5、最終回でした。
その1で書いたように、今回の旅はそれほど乗り気ではなかったのですが、行ってみてよかったです。海外渡航は若い頃にしてなんぼかな、と思っていましたが、大人だからこそ気づく点がたくさんあり、よい刺激と勉強の旅になりました。両親と旅行ができたことも、よい思い出になりました。
ちなみに、スーパーで700円くらいだった7Dのドライマンゴーは、空港では3倍の値段でした!! もしフィリピンに行く機会があったら、セブ空港では何も買わないほうがよいです。
以上、フィリピン旅行記でした。お読みいただいた方、ありがとうございました!