講談社の『BE・LOVE』で連載されているファンタジー漫画、『星降る王国のニナ』を、単行本で4年ほど追いかけています。物語も佳境に差しかかってきたところで、今月にはアニメ放送が始まり、個人的に「もっと多くの人に知ってもらいたい！」という想いが高まっています。
そこで今回はネタバレなしで、作品の魅力を紹介します。
『星降る王国のニナ』の概要
『星降る王国のニナ』は、リカチさんによるハイファンタジー漫画です。分類としては少女漫画に該当しますが、『BE・LOVE』の読者層が30-50代なので、中高生を対象とした青春ラブコメとは異なる、大人びた作風です。具体的には、以下の特徴をもっています。
- 恋というより、人間愛がテーマ
- 大人でも耐えがたいと思う、試練につぐ試練が主人公の少女に襲いかかる
- 登場キャラクターの年齢・性別が幅広く、一人ひとりの人生がきちんと作り込まれている
2019年から連載がはじまり、2022年には、講談社漫画賞少女部門を受賞するなど、年々人気が高まっている漫画です。累計発行部数は230万部以上で、今月からはTVアニメが放送されています。
2024年10月現在で、14巻まで単行本が発売されています。最新巻では、主人公・ニナの果たすべき使命が明かになったため、物語は終局に向けて、加速していくと思われます。
なお、大人びた作風といっても、恋愛描写は通常の少女漫画範囲内です。その証拠に11月には、小学生向けの青い鳥文庫から、小説版『星降る王国のニナ』が発売されます。
物語のあらすじ
孤児としてその日暮らしの生活をしていた15歳の少女・ニナは、ある日、仲間に裏切られ、フォルトナ国の王子・アズールに売られます。アズールは、緊張関係にある大国ガルガダの王子と政略結婚をする予定だった、フォルトナの巫女姫・アリシャが不慮の事故で亡くなったことから、「アリシャ」としてガルガダに嫁がせる娘を探していたのでした。
星の巫女姫は、めずらしい瑠璃色の瞳をもつことで知られていたため、成りかわる者も、同じ色の瞳でなければなりません。その点でニナは、瑠璃色の瞳をもっていたため、アリシャ役として適任でした。
ニナは売られた当初、快適な衣食住の暮らしができるとはいえ、アリシャに成りかわることに乗り気ではありませんでした。ところが、自分を一人の人間として見てくれるアズールに、しだいに心惹かれるようになります。そして、アズールを含めた大切なフォルトナの人びとを、ガルガダの脅威から守るために、アリシャ姫としてガルガダの王子に嫁ぐことを決意したのでした。
「私はガルガダに嫁ぎます。フォルトナを守る盾となるべく」
『星降る王国のニナ』2巻・第7夜
「もしもアズールさまが、不審な死を遂げるようなことがあれば――私はガルガダを率い、フォルトナを滅ぼす剣となりましょう」
物語の魅力
ここからは、個人的に物語の魅力だと思う点を、紹介していきます。ネタバレはないので、未読の方もお楽しみください。
1. 何度打ちのめされても立ち上がる主人公
この物語の一番の魅力は、情け容赦のない試練が、次々にニナに襲いかかる点です。ニナは、そのたびに打ちのめされながらも、「大切な人たちを守る」という信念から、奮起して問題を打開していきます。
ニナに襲いかかる試練が壮絶すぎて、読者は「ニナが置かれた状況に比べたら、自分の置かれた状況なんてちっぽけなものだ」と思い、そこからニナが奮起して闘う様子を見て、「自分も頑張ろう」と前向きになれます。
例えば、序盤での一番の試練は、政略結婚の相手である、ガルガダ王子・セトの攻略です。ニナが花嫁として彼の城に到着してみると、そこには属国からきた、複数の花嫁候補がいました。そのうち一人は、セトの不興を買って殺されており、残りの花嫁たちも、セトの洗礼を受けて精神的に病んでいました。
第一王子であるセトに気に入られて、未来のガルガダ王妃となることは、フォルトナの大切な人たちを守るために、ニナにとって必須のことです。そのためニナは、心が折れそうになりながらも、セトに認めてもらおうと奮闘します。
のちにセトは、アズールと並んで、ニナに想いを寄せるヒーローの一人になります。しかし、初手のヒロインに対する仕打ちが、他で見たこともないほどひどくて驚きました（誉め言葉です笑）。「出会いは最悪」にしたほうが、のちの展開で盛り上がることは、恋愛物語のセオリーです。だとしてもここまでするか…と作者の物語に対する本気度を感じました。
他の試練の例でいうと、ニナは物語中で、裏切られたりはめられたりして、数えきれないほど投獄されます（本人も監獄は家みたいなもの、と冗談で言うほど）。
2. 人間愛の相乗効果がテーマ
つづいての魅力は、人間愛の相乗効果が描かれている点です。私はじつは、この物語のテーマは「恋」ではなく「愛」だと思っています。それは、ニナの「大切な人を守りたい」という信念にもつながっていますが、「愛」というテーマが経由するキャラクターを変えて、物語中で繰り返し描かれています。
『星降る王国のニナ』では、登場するキャラクターが、一人ひとり独立して、自分の人生を背負い、信念をもって行動しています。ゆえに、主人公×誰か、の組み合わせに限らず、主人公以外の誰か×誰かの組み合わせの人間愛も多々描かれています。例えば、若い男性に対して、壮年の男性が、過去の自分の経験を彼に重ね合わせて、支えたり助言したりする場面があります。
一人ひとりの登場人物が、それぞれ他の人物に影響されながら、前を向いて、より徳のある人間へと成長していくさまは、究極の人間愛の相乗効果だと思います。そのような人間愛が、物語を一貫して走っている点で、『星降る王国のニナ』は（恋ではなくより広義な）愛の物語といえます。
私が好きなキャラクターは、フォルトナの幼い王子・ムフルムと、主人公の侍女を務めるヒカミです。私は二人が、他者の人間愛に触れて、成長していくさまが好きなのかもしれません。なお、人間愛は「友愛」とも言い換えられます。
3. 精神的な弱さを誰しも持っている
つづいての魅力は、物語に登場するキャラクターの誰しもが、精神的な弱さを持っている点です。しかも、時と場合によって精神の状態が変わる（沈んだり復活したりする）ところが、人生に山あり谷ありな、人間らしいです※。
※以前、人生における困難について考察しています→「人生において困難はないに越したことはない」は本当か？
例えば、ニナが精神的に辛いときには、周りの誰かが支えてくれます。逆に、ニナが元気なときには、周りで辛い状態にある誰かを支えてあげます。この場合の「辛い状態にある誰か」には、（普通の少女漫画ならかっこよく描かれるはずの）ヒーローの2人も含まれており、現実的でとても好感を持っています。なぜなら、現実の夫婦や家族や友達は、そうして支え合って生きているからです。
自分が弱っているときには、周りの誰かに支えてもらって、周りの人が弱っているときには、自分が護ってあげる。そうした人間らしい愛の循環が繰り返し描かれている点が、私はとても好きです。
4. どちらと結ばれるか分からない展開
最後の魅力は、ニナが、アズールとセトという2人ヒーローのうち、どちらと結ばれるのか分からない展開です。普通の少女漫画だと、本命が一人、サブが一人な展開だと思いますが、『星降る王国のニナ』は、どちらも同程度に感情移入できるように描写されているため、最後までどちらになるか分からない状況です。
ゆえに、ファンの間ではアズール派とセト派に分かれており、アクスタ等のグッズも2人が平等に販売されています。物語のテーマを考えると、今のところあっちだな……と予想しているところはありますが、何も言わないでおきます。また、今までの苛酷な展開からして、結末はああななるかも……という予想もありますが、これも言わないでおきます。
世界観の魅力
『星降る王国のニナ』は物語の展開もさることながら、ファンタジーとしての世界観もきちんと作り込まれています。
個人的にいつも楽しみなのが、登場人物たちの衣装です。14巻までの間に、フォルトナ・ガルガダ含めた3つの国の様子が詳しく描写されます。その際、それぞれの国の異なる文化が、衣装に反映されていて、ファンタジーものとして非常によいです。
男性陣の衣装替えはあまりありませんが、主人公のニナは女の子で、姫という設定になっているので、物語の時間軸が日をまたぐたびに、衣装と髪形が変わります。どの服飾もオリジナリティがあり、とっても可愛いので、間違いなく作品の見どころの一つです。
なお、アニメでも（作画コストがかかるにもかかわらず）衣装替えが多く、作者のリカチさんはすごいと言っていました（Twitterにて）。
以下は、4年ほど前に描いたファンアートです。
おわりに
今回は、リカチ『星降る王国のニナ』の魅力を紹介しました。個人的に、物語について魅力に思う点は以下の通りでした。
- 何度打ちのめされても立ち上がる主人公
- 人間愛の相乗効果がテーマ
- 精神的な弱さを誰しも持っている
- どちらと結ばれるか分からない展開
本当に本当に大好きな物語なので、続きが楽しみです。興味をもった方は、ぜひ漫画を読んでみてください。アニメ化されたばかりなので、キャンペーンで、各種漫画アプリで3巻まで無料で読めると思います。
以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
