輝きに惹かれる人びと

《Sun rising over the city》1532-1535年、Kupferstichkabinett Berlin所蔵。伝説上の錬金術師Salomon Trismosinの作品と考えられているSplendor Solisに収録された絵
目次

はじめに

以前、西洋における光の文化史において、西洋の中世期の人びとが輝きを放つものを好んでいたと記載しました。

記事を書いた後に思ったのは、輝きに惹かれる者は西洋中世人だけではないということです。例えば現代において、ダイヤモンドはより輝きを放つもの(より優れたカットが施されたもの)に高い評価・値段がつきます。そして「目の輝き」「歯の輝き」「髪の輝き(艶)」という言い回しにおける「輝き」には、明らかにプラスの意味があります。

つまり輝きとは時代や地域の相違を越えて、人類が普遍的に好むものと言えそうです。そこで今回は輝きについて考察します。

輝きの前提

《Sun rising over the city》1532-1535年、Kupferstichkabinett Berlin所蔵。伝説上の錬金術師Salomon Trismosinの作品と考えられているSplendor Solisに収録された絵
《Sun rising over the city》1532-1535年、Kupferstichkabinett Berlin所蔵。伝説上の錬金術師Salomon Trismosinの作品と考えられているSplendor Solisに収録された絵

輝きに関して考えるにあたり重要なのは、輝きが生まれるためには、光の存在が不可欠であるということです。世の中には2種類の「輝き」が存在します。1つ目は、自ら輝きを放つものです。太陽や電球がこれに相当します。2つ目は、それ自身は光を放たないが、他から当てられた光を反射して輝きを放つものです。ダイヤモンドや金箔がこれに相当します。

後者の輝きは、前者の輝きの副産物であり、光があってこそ生まれるものです。例えばいかに高価なダイヤモンドであっても、それをまったく光が差し込まない暗室へ持っていった場合、ダイヤモンドの価値はただの石ころと変わりません。輝きを放たないからです(ただし、そのへんの石ころと異なり非常に硬いという価値はある)。

ゆえに、自ら光を放つ輝きは、反射する輝きに先立って存在するものです。そして電気が発明されるまでの近代以前、自ら光を放つ輝きとは、太陽、月、星、あるいは火(※)のみでした。

※西洋における火の象徴性について知りたい方は文明の象徴としての火を参照。

輝きへの賛美は、自ら輝きを放つ物体への畏怖や信仰から端を発していると考えられます。世界中に存在する太陽と月に対する信仰や、火を神聖視するゾロアスター教の存在がそれを証明しています。

太陽と月

西洋における光の文化史で説明した通り、西洋文化においては、光は神と同一視されています。そして中世期(4世紀-14世紀ごろ)には輝きというものが、特に賛美されました。

ホイジンガはその名著『中世の秋』にて、輝きへの賛美を中世人が言葉で表現した例として、次の通り挙げています。「行進する騎馬の一隊の、かぶとやよろい、槍の穂先、槍旗や旗指物にたわむれる日の光」、「露の玉にきらめく日の光」、「ブロンドの髪に、日の光がきらきら輝いている」こと [1]。

本記事の冒頭に記載した通り、輝きを賛美する行為は西洋の中世人に限ったことではありません。なぜなら太陽や月といった自ら光を放つものに対して、世界のいたるとことに信仰が見られるためです。イタリアの記号学者であるウンベルト・エーコも、美学(※)的な観点から以下の通り述べており、輝きに対する太陽の重要性を主張しています。

※美学とは、哲学の一分野である。美とは何か(美の本質)、どのようなものが美しいのか(美の基準)、美は何のためにあるのか(美の価値)ということについて、考える学問。

美学における光彩(クラリタス claritas※)の起原のひとつは、間違いなく、多くの文明で神や光がしばしば太陽と同一視されたという事実にある。

ウンベルト・エーコ『ウンベルト・エーコの世界文明講義』和田忠彦監修、河出書房、2018年、39頁

※クラリタス claritasはラテン語。ラテン語についてはラテン語とはを参照。

太陽と月は言うまでもなく、輝きを放つ天体のなかでも最も重要なシンボル性をもつ2つの天体です。例えば日本の神道では太陽神としてアマテラスオオミカミが、月神としてツクヨミノミコトが存在します。

金と銀

Anatomical Man、『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』より、1411-1416年頃
Anatomical Man、『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』より、1411-1416年頃

洋の東西を問わず、太陽と月に対応する金属として考えられているのが、金と銀です。天に対して最初に興味を持ち、占星術を最初に発案した文明は、バビロニアであるという考えが定説です [2]。

占星術が発展するにつれて、天体と金属を結びつける動きがでてきます。その際に太陽と月に対応づけられた金属が、金と銀でした。例えばアララト山に住んでいた錬金術師たちは、天体が放つ光の色から類推して、金が太陽から、銀が月からやってきたと考えました [3]。あるいは以下の通り、金に関してはそれが最も輝く金属であったことから太陽と関連付けられました。

黄金は、酸化することなく光を放ち続けるので、ほとんどの文化圏において太陽と結びつけられた(たとえばアステカ人は黄金を太陽神の排泄物としてみなし、「テオクイトラトル」つまり「神の糞」と呼んだ)。

ハンス・ビーダーマン『図説 世界シンボル事典』藤代幸一監修、八坂書房、2019年、「黄金」の項目より
陰と陽
陰と陽

ちなみに古代中国の概念である陰陽(※)においては、銀が陰の象徴であり、金が陽の象徴であるとされます。

※陰が女性的要素であり、北、冷、暗、地、静、湿を表す。陽が男性的要素であり、南、暖、明、天、動、乾を表す。陰と陽は対立するものではなく、相互補完的な関係である。

おわりに

今回は輝きについて考察しました。

輝きには前提として2種類のものがあり、1つは自ら輝きを放つもの、もう1つは他の光を反射して輝くものです。前者は後者に先立って存在します。それは電気が発明されるまでは、天体である太陽・月・星、あるいは火のみでした。よって輝きへの賛美は、自ら輝きを放つ物体への畏怖や信仰から端を発していると考えられます。

今回の記事では、古来存在する原始的な輝きとして太陽と月に着目しました。世界各地の神話に見られる通り、太陽と月は輝きを放つ天体のなかでも最も重要なシンボル性をもちます。

そして太陽と月に対応する金属として、金と銀を紹介しました。この関連付けは、それぞれの天体が放つ光の色から、あるいは輝きの強度によってなされました。

以上、輝きについての考察でした。

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参考文献

[1] ホイジンガ『中世の秋(下) 』堀越孝一訳、中公文庫、2018年、279頁

[2] 中山茂『西洋占星術史 科学と魔術のあいだ』 講談社学術文庫、2019年、11-12頁。

[3] 同上、93頁。

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