大原美術館【岡山県2024】

はじめに

岡山県の有名な観光名所に「倉敷美観地区」があります。それは、江戸時代の白壁の家並みが保存された地区です。埋め立てをする前はその地区が瀬戸内海に接しており、物流の拠点となっていました。

その美観地区の一画に、日本で最初に西洋絵画を扱った美術館・大原美術館があります。前から行ってみたいと思っていたため、友人と一緒に行ってきました。

今回は大原美術館と倉敷の旅についてつづります。

阿智神社

友人いわく、「岡山といえばデミカツ」らしいです。倉敷には有名なとんかつ定食屋「かっぱ」があるそうで、ランチをそこで食べるべく、倉敷に着いてすぐ、ウェイティング・ボードに名前を書きに行きました。お店の開店は11:20ですが、あまりにも人気のため、開店する前から店の前にウェイティング・ボードだけ置いてあるのです。私たちが書いたのは9:30ごろだったと思いますが、すでに数名の名前が書かれていました。

「かっぱ」は美観地区を抜けた商店街沿いにありました。美観地区へ戻る途中に、たいへん立派な神社があったため、寄ってみることにしました。阿智神社という名で、『日本書記』にも言及がある歴史ある神社のようです(元関東民からすると、こういう歴史ある建造物が当たり前にあることに驚いてしまう)。

主祭神は三柱の女神で、あとから調べてどんな女神か分かりました。スサノオが姉のアマテラスに会いに高天原を訪れた際、悪心を持っていないことを証明するために、誓約をし互いの持ち物から子を産み合うことになりました。アマテラスがスサノオの剣から三柱の女神を産み、スサノオがアマテラスの勾玉から五柱の男神を産みました。その際、アマテラスが産んだ三柱の女神が、阿智神社で主祭神とされている神々です。

この部分の神話について、最近、吉田敦彦・松田一男『神話学とは何か』で読んだばかりでした。三柱の女神に、五柱の男神という部分は、もしかして雛祭りの三人官女と五人囃子に影響を与えているのかも、と思いました。

神社の境内にある岩。すごい苔。
樹にも立派な苔。梅雨なので、苔が美しい季節だ。

緑に囲まれた階段をのぼっていくと、社に辿りつきました。

うさぎ!!
立派なしめ縄。
あじさいが活けてある。
手水所にもあじさい。竜の置物もある。

私たちはお参りを済ませて、山を下りました。参拝者には、20代~40代くらいの女性が多く、なかでも一人で来ている旅行者らしき人が多かったです。理由が気になり、ご利益を調べて見ると、「美容健康」というご利益がありました。「芸能上達」もあるので、絵がうまくなるようお願いすればよかったかも。

美観地区うろうろ

その日は明け方まで雨が降っていたため、あたりは湿っていました。そこで思わぬ発見がありました。家の外壁についた板が湿って、木の芳香がただよってきます。例えるならヒノキ風呂からいい香りがただよってくるような感じです。

美観地区の路地。
柳の木が並ぶ運河。柳の下はとても涼しい。
運河には白鳥が暮らしている。

白鳥を見つけて、私と友人は喜びました。一年ほど前に訪れた際も、白鳥がいて一緒に眺めた思い出があります。そのときは夜に寄ったので、お店などは閉まっていて見れませんでした。しかしライトアップが綺麗でした。

夜の倉敷美観地区。
大原美術館。

実はそのときにギリシア神殿風の建物を発見して、それが大原美術館でした。次に来るときには美術館に行きたいなと思い、それが今回実現したのでした。

大原美術館

大原美術館は、紡績業などで財を成した大原孫三郎が1930年に創設した美術館です。彼は岡山県出身の画家・児島虎次郎のパトロンとなり、彼を勉学けん美術品の収集のため、何度か渡欧させました。虎次郎が収集した美術品を公開するためにできたのが、大原美術館です。収集された美術品には西洋のものからアジアのものまでありました。その後も、大原一家によって美術館の収集品は増やされ、整理されてきました。

入場料は2000円で、少し高めですが、それだけの価値はありました。

本館の入口。
睡蓮の池。

入って最初の部屋では、児島虎次郎の作品が展示されていました。彼の作品のなかには、皇室に買い上げられたり、フランス政府に買い上げられたりしたものもあるようです。それも納得のすばらしい絵の数々でした。虎次郎は、最初は芸術家を目指すあらゆる者が行く都、パリに滞在しましたが、人が多いしきらびやかで嫌になって、早々にフランスの田舎に移り住んだそうです。

《ベゴニヤの畠》児島虎次郎、1910年、大原美術館。

児島虎次郎の作品のなかで、私がいちばん気に入ったのは、スペインにてジプシーをモデルに描いた絵でした。丘の上に男女が立ち、背後にはスペインの町並みが広がっています。最近、ジプシーの歴史について書いたばかりだったこともあり(西洋史におけるジプシー)、惹かれました。しかし題名を忘れてしまい、ネットでもそれらしき画像はなさそうです。

順路に従って歩いていくと、やがて西洋絵画のコーナーになりました。モネの睡蓮など、名だたる画家の絵が並んでいました。そのなかにはエル・グレコの《受胎告知》があり、ネットで頻繁に見る絵が、日本にあったことに驚きました。受胎告知とは、マリアの元に天使ガブリエルが降り、キリストを身ごもったことを伝える場面で、キリスト教の宗教画でよく描かれるテーマの1つです。

《受胎告知》エル・グレコ、1590 – 1603年、大原美術館。

個人的に好きな画家、ギュスターヴ・モローの絵画も1枚所蔵されており、テンションが上がりました。モローは水彩画の絵を少なからず残しており、これも水彩画でした。水彩画は油絵と異なり、失敗や塗り直しができないため、すごいなと思います。

《Song of Songs》ギュスターヴ・モロー、1893年、大原美術館。

大原美術館は、チケットを保持さえしていれば、再入場することができます。私たちは昼ごはんを食べに退場したあと、東アジア館という、アジアの美術品が展示されているコーナーに行きました。中国の後漢時代の焼き物人形を見て感心していたところで、紀元前1400年(殷の時代)の展示が目に入り、びっくりしてしまいました。

それは、甲骨文字が彫られた獣骨でした。甲骨文字は漢字の元となった文字で、占いに使われていた甲骨に彫られていることから、そう呼ばれました。占いの仕方は、骨を熱して、そこに入った亀裂の具合で吉兆を判断します。いま「亀裂」と書きましたが、この単語に「亀」が使われていることから、占いに由来している単語であることが推測できます。占いには亀の甲羅がよく使われたのです。

獣骨の横には、占い内容を書いたキャプションもありました。「○○に攻めようと思う。この日は攻めるのに吉か」「○○の儀式をするのにこの日は吉か」「雨が降るか降らないか」などの内容がありました。まさか、日本にいながら甲骨文字を見られると思わなかったため、感激でした。

デミカツ

大原美術館の目玉作品が、エル・グレコの《受胎告知》であることが、そばにある喫茶店名からもうかがえました。その喫茶店の名前はズバリ、「エル・グレコ」! ちなみにエル・グレコの本名はドミニコス・テオトコプロスで、「エル・グレコ」は英語で「The Greek」という意味になる通称です。なぜGreekなのか? 彼がギリシア出身の画家だからです(珍しいですよね)。

そこで私は、もし自分が喫茶店を開くことになったら、店名を何にしたいか、という話を友人としました。古代ギリシア語かラテン語の名詞がいいな……と思い、思いついたのが「ルーデンス」です。

最近友人と、人間だけでなく動物も「じゃれる」などの遊びたい感情を持っている、しかもペットではない家畜や野生動物でもそう、ということを話していました。例えば友人は家畜として鶏を飼っていますが、意味もなく肩に乗ってきたり、長靴から出ている紐を(猫じゃらし的感覚で)つついてきたりするそうです。

そこで話題になった本が、ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』でした。これは人間を「賢い者(ホモ・サピエンス)」ではなく「遊ぶ者(ホモ・ルーデンス)」と捉えた本になります(ludensはラテン語のludere(動詞)に由来)。しかし、動物も遊ぶと捉えると、この本を読む時にまた変わった見方ができるかもしれません。

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というわけで、もし将来喫茶店を開くことになったら、「喫茶ルーデンス」にしましょう。正確にいうとludensは現在能分詞で、名詞はludusらしいので、「喫茶ルードゥス」もいいですね。

さて、我々は朝いちばんにウェイティング・ボードに名前を書いた店、「かっぱ」に戻ってきました。そこには開店を待つ大勢の人がいて、我々の後には20組くらいいるようでした。なかには中国人観光客もいました。

私たちは無事店に入ることができ、定番である「とんかつ定食」を注文しました。デミグラスソースがかかったサクサクのとんかつに、塩レモンをあえたキャベツの千切りがそえてありました。幸せすぎて無心で食べました。

とんかつ定食。

隣に座っていたカップルの女性のほうが、「ミニとんかつ定食」という、普通より少なめと思われる定食をオーダーしていました。ところが、皿が運ばれてきた瞬間、「ミニ? ミニじゃない……」とつぶやいていました(笑)。さらには、何切れあるか数えて、彼氏が頼んだ普通サイズのものと比べていました。私も横目で見ましたが、どう見ても普通サイズのとんかつと変わらなかったです。肉の重量が少しちがうのでしょうか。とにかくボリューム満点でした。

そしてとんかつを食べているときに私は思い出しました。自宅の冷蔵庫のチルド室には、とんかつにしようと思って買った、豚肉ロースしかないことを。それを友人に伝えたところ「ロースでも気合いで生姜焼きにできる」とのことだったので、言われた通り、生姜焼きの味つけにして食べました。ふつうに違和感なくおいしかったです。

おわりに

今回は、大原美術館と倉敷の旅についてつづりました。昼ごろになると天気が回復して暑くなってきたため、早々に退散してしまいましたが、十分に楽しめました。倉敷にはとんかつ屋以外にも、おいしそうな店がたくさんあったため、また機会があれば他の飲食店に行ってみたいです。

また、倉敷では「えびす焼き」と呼ばれる、呼び名が違うことでネット戦争になる、あの食べ物が売っていたため、それも食べてみたいです。私は「今川焼き」と呼びますが、友人はちがう名前で呼んでいました(このあたりで主流な「大判焼き」でもなかった……なんだろう。今度確認してみよう)

以上、お読みいただきありがとうございました。

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