はじめに
前回はクロアチアの首都、ザグレブの滞在についてつづった。今回は大小16の湖、92の滝がある、プリトゥヴィツェ湖群国立公園の滞在についてつづる。旅の概要はこちら:海外一人旅ってどんな感じ?-クロアチア導入
1日目
プリトゥヴィツェの概要
プリトゥヴィツェ湖群国立公園とはどんなところか? 一言でいえば、Windowsのロック画面画像でよく出てくる、自然美麗な湖の公園である。湖の色はミネラルや有機物の量、日照の角度などによって変わるらしいが、とくに観光シーズンである夏の湖は下図のとおり素晴らしく綺麗なエメラルドグリーンであり、この色を求めて訪れる人が多いだろう。
言い忘れていたが、クロアチアはそもそも地中海沿岸の国なので、西洋の人びとにとって「バカンスの国」なのだ。西洋の人びとは夏のどこかで1カ月ほど、ぽーんと休暇を取得する。そして一斉に南下をしはじめて、その一カ月間は地中海沿岸のどこかの国で、海で遊んだりしながらのんびり過ごす。それが「バカンス」というもので、ゆえに夏のクロアチアはバカンス客によってものすごい人工密度になる。夏はクロアチアにとって「シーズン」であり、観光業をしている人にとっては、一番のかきいれ時なのである。
というわけで、たいていの人はクロアチアを夏に訪れるため、上図のエメラルドグリーン湖が見れるわけである。しかしながら、私がクロアチアを訪れたのはオフシーズンである3月だったため、よく見る上図のエメラルドグリーンはなく、緑もなく、雪が積もり凍てついていた! だからがっかりというわけではなく、それはそれで本当によかった。人もぜんぜんいなくて、自分1人で思う存分たのしむことができる。
地理的な情報を前もって調べずに行ったので、バスを降りて最初に、雪が積もっていてびっくりしてしまった(もう春も近いというのに)。公園は標高が高い場所にあるということだ。公園の植生としては、北イタリアからつづくアルプスの植生と、地中海の植生が渾然となっており、その多様性に価値の1つがあるということだ。行った当初は知らなかったけれど、ヒグマやオオカミなど希少な動物も多数生息しているようで、今になって「襲われなくてよかった……」と震えている。もともとオフシーズンで人が少ないうえに、人気がない場所もたくさん歩いたので、いつクマが出てきてもおかしくなかった。
プリトゥヴィツェ湖群国立公園の周辺では、数千年前から人類が暮らしてきたそうだ。水が豊富で、植生も豊かといえば、住みやすいほうの土地だろう。観光地として注目されたのは早く、19世紀後半にはすでに一大観光地だった。ユネスコの自然遺産に登録されたのは、1979年のことだ。
公園を歩く
2泊したザグレブの宿をチェックアウトし、国を縦に走る高速バスに乗って、プリトゥヴィツェ湖群国立公園へ移動する。3時間程度の移動時間だったと思う。バス停に下りた瞬間、3月なのに雪が積もっていることに驚いた。「こんなに雪が残っていて、公園は運営しているのだろうか?」と思ったが、無事運営していた。キャリーケースを預けて、公園内に入ってみる。
入ってすぐに、滝の音がけたたましかった。滝が数百メートルにわたって落ちている。
観光客は中国人の団体客が多かった。ツアーで来ているようで、メインの湖を見て1時間ほどで帰っていく。しん……としたなかで滝の音しかしないので、心が洗われるようだ。私は湖の近くには下りずに、まずは周辺の山を歩いてみる(そのほうが全貌がよく分かる)。水の色は夏ほどまではいかないが、若干緑っぽい。
地図を頼りに山を歩き、船着き場に到着する。時期によるが、公園内では湖を走行する遊覧船が出ており、その一つに乗ってみる。乗客は私の他に一組しかいなかった。船の本数は少ないため、待ち時間が雪に冷やされて寒かった。
船に乗って湖の奥のほうへ移動する。途中、見どころの滝などにも案内してくれる。
別の船着き場についたので、とりあえず降りる。この時期にこれほど奥までくる観光客はいないようで、あたりには誰もいない。
ここを歩いていたときの動画がある。しーんとするなか、鳥の鳴き声と、水の流れる音だけが響く。お気に入り。
再び山のほうに入って歩いていると、「見晴台」と書かれた看板があった。雪が積もっていて本当にあるのか怪しいが、足場はさほど悪くなさそうなので行ってみる。おそらくこの日、この見晴台を訪れた観光客は私だけだと思う。それくらいどこにも人がいなかった。
調子に乗って、別の見晴台に行こうと、舗装された道路から一歩ふみだしたところ、膝まで雪に埋まった。ここまで深いとは思わなかったからびっくりしてしまい、あわてて舗装された道路に這い上がった。こんな人気のない場所で事故にでもあったら、まちがいなく死ぬ。そう思った私は、無茶はせずに、舗装された場所だけを歩くことにする。
無事、入口付近に戻ってきた。大自然を十分に堪能したので、今日の宿に移動しようと思う。
山の中のロッジ
公園から予約した宿までは、3kmほどの道のりがある。3kmくらい歩けばいいや、と思っていたのだが、道路に雪が積もっている状況では、キャリーケースを運べないので無理だ。公園スタッフの人が「宿までタクシーを使うといい」と言っていたが、タクシーなんて見当たらない。公園を出たところでうろうろしていると、雪景色のなかに、謎のおじさんが一人現る。
おじさん「×▼●」(なんか言っている。クロアチア語?)
私「タクシーを探しているんですけど……」
おじさん「タクシー?」(手招きして「こい」の合図)
む。どうやらこのおじさんは、タクシーの運転手のようだ。海外でありがちな、ぼったくりタクシーとかじゃないよな? と怪しみつつ、とはいえこのおじさん以外、人が見当たらない。観念しておじさんのタクシーに乗る。行先は? とジェスチャーで訊かれたので、宿の予約画面を見せる。すると、「ああ、あそこか」というふうに頷き、車が発車した。
車が走っている途中、私は何をしていたかというと、メーター画面をじっと見ていた。不自然な料金の上がり方をしないか、怪しんでいたからだ。メーターで「80クーナ」まで行ったとき、宿泊施設が立ち並ぶ集落に辿りついた。タクシーのおじさんが、(雪で覆われてよく分からないが)駐車場らしき場所に停車して宿の主人を呼ぶと、別のおじいさんが出てきた。二人は打ち解けた様子で挨拶していて、顔見知りのようだった。
結局、タクシーのおじさんは、善良な地元の人だったらしい。宿の中までキャリーケースを運んでくれた上に、料金は70クーナとのこと(メーターではもう少しいっていた)。
宿の主人のおじいさんは、田舎者らしく、カタコト英語である。着いたのは15:30ごろで、まだ誰もいない家のなかを案内してくれる。2階の部屋を見せてくれたとき、「理想の丸太小屋」すぎてWonderfull!と叫ぶと、自慢げなおじいさんが3階の部屋も見せてくれた。どっちの部屋がいい?と訊かれて、選ばせてくれた。結局、最初に見せてもらった部屋にして、荷物を入れる。
ご覧のように、集落は雪に深く覆われており、へたに歩くと遭難しそうなので、宿に着いてからはいっさい外に出ないことにした。飛行機のなかで貰った未開封のサンドウィッチがあったため、それを夜ごはんとする。宿を予約するとき、朝ごはんのオプションがあり、それをつけた記憶がある。なので、明日の朝はもう少しましなごはんが食べられるだろう。
部屋にはオイルヒーターがついていたため、温かかった。ベッドもふかふかで、ブランケットもあって、静かで心地よくて最高だった。私以外の宿泊客はいないのかな、と思っていると、夜になって、外の廊下で男女2人の声がしていたため、もう一組の客がいたようだ。私は20時ごろに就寝した。
2日目
おじいちゃんのお手製朝食!
翌日、午前3時ごろに目覚め、うとうとしながら6時くらいにベッドから出た。晴れているのに、しとしと雨が降るようなへんな天気だ。窓を開けると、鳥の鳴き声が聞こえ、薪を燃やすにおいが鼻をかすめた。空気が冷えていて、雪のにおいもする。
おじいさん起きているかな? と思いながら階下に降りていくと、オーナーのおじいさんは近所のおじいさんと話し込んでいた。私に気づくと、Good Morning!と挨拶してくれる。食堂に案内してくれ、「ここの料理を好きにとってね」と案内される。3人しか宿泊客がいないのに、料理はホテルのようにきれいにレイアウトされていた。
スライスされた3種類のパン、チーズ、ハム、サラミ、何かの燻製肉(鹿っぽかった。尋ねるとクロアチア語で答えたあと、角をジェスチャーしていた)、ヨーグルト、バター、はちみつ、ジャム、牛乳、シリアル、ジャム入り揚げパンが並んでいた。ジャム入り揚げパンは3つきれいに並んでいたので、一人一個だろうな、と思って1ついただいた。
好きに取った食事をいただいていると、台所でカチャカチャやっていたおじいさんが出てきて、お皿を持ってきてくれる。”You try” と言われて皿を見ると、手作りのオムレツだ!!! バターと塩コショウで味付けされており、薄味だけれどとてもおいしかった。温かいものを数日ぶりに食べたので、心遣いも含めてとても嬉しかった。間違いなくこの旅の食事のいちばんのハイライト。
おじいさんに今日の予定を訊かれ、バスで次の町スプリットまで行くことを伝えると、バス停まで車で送ってくれるとのこと。雪のなかキャリーケースを運ぶのは大変だから、本当にありがたい。少しヒヤっとしたのが、この宿が現金払いのみで、かろうじて次の町までのバス代が残ったこと。こんな山奥ではATMも銀行もないだろうし、危なかった。
この宿の名前は「Rustic Lodge Plitvice(プリトゥヴィツェの田園ロッジ)」であり、プリトゥヴィツェ近郊で泊まるなら本当におすすめだ。私ももし行く機会があれば、またこの宿に泊まりたい。
そして長旅がはじまった
今日の予定は、9:45発のバスに乗って、16:00にスプリットに着くことだ。途中休憩はあるが、なんと6時間もバスに乗っていることになる。集落近くのバス停に着くと、すでにバスを待っているアジア人カップルがいた。女の子のほうが、私に向かって何か話しかけてきた。韓国語だ。通じないとみて、私が韓国人ではないと悟ったらしい、私が”I’m Japanese, and you are…”まで言うと、”Korean”という言葉がその子とはもった。私と同じく、スプリットまでバスに乗るとのことだ。
その後、別の西洋人カップルもバス停に来た。カップルだらけじゃないか。こういう待ち時間に、話し相手がいるといいなあ、と思う。小屋上になっているバス停の屋根を、雨粒がトントンと叩いていた。鳥の鳴き声もそこかしこで聞こえ、だんだんと青空が見えてきて、気持ちのよい時間だった。30分以上待ったところで、バスがやってきた。
6時間のバス旅なんて退屈かな、と思っていたが、ぜんぜんそんなことはなかった。流れていく景色が日本とまったく異なる風景で、見ていて飽きなかった。何十km先まで広大な荒野が広がっていたり、エメラルドグリーンの小川やでかい湖があったり。バスが山を下りて海岸に近づいてくると、オリーブの樹が出現した。家の屋根瓦はどこもオレンジで、壁は白である。
ちなみに、一緒のバス停で乗った韓国人カップルは、発車して2つ目のバス停くらいで早々に下りてしまった。女の子が具合悪そうだったので、乗り物酔いとかしてしまったのかもしれない。
そうこうしてバス旅を楽しんでいると、目的地であるスプリットに着いた。
おわりに
今回はクロアチアのプリトゥヴィツェ湖群国立公園での旅についてつづった。次回は、スプリットでの旅についてつづる。