はじめに
7月上旬のフィリピン旅行記その4です。前回は、マニラ観光後半についてつづりました。あわせて、偶像崇拝やフィリピンの政治や大家族主義についても記載しました。
今回は、マニラから飛行機で1時間ほどの距離にあるセブに移動し、マクタン島沖合のとある島へ行きます。セブ島は海がきれいなリゾート地として有名です。私が語学留学していた学校も、セブ島にありました。
オーバーブッキングに遭遇
私たちは島へ渡る船の時間から逆算して、マニラからセブへ飛ぶ、7時台の飛行機に乗る必要がありました。そのため、まだ夜も明けきらない4時台に起きて、空港に向かいました。ところが、フィリピン航空のカウンターでチェックインしようとすると、「オーバーブッキングのため次の便になります」と言われます。
オーバーブッキングとは? と思い父に尋ねると、「席数を越えた予約が入ること」だそうです。ふつう、席数の上限人数までしか予約を受け付けないはずだよね? と思い確認すると、「いや、ある程度のキャンセルを見越して、少し多めに予約枠をつくるんだよ。それで最終的に収支のバランスが取れるようにしている。ただ、キャンセル数が想定より少ないと、誰かに別の便に移ってもらう必要がある。もちろんタダでというわけではなくて、何か客の利益になるような特典をつけるんだ」とのことです。(今回のケースでは、便を振り返ると航空会社のポイントを付与される)
オーバーブッキングは、旅行業界では常識概念なようで、飛行機に限らず、ホテルで同じ仕組みを採用しているところは多いそうです。父も一度、どこかの国のホテルでオーバーブッキングに遭遇し、客室ではなく広間で寝たことがあるとのこと。外国に特有な話ではなく、日本の航空会社も採用している仕組みです。知らなかった。「ただ、ツアーで団体さんを連れているときに、こうなると困っちゃうんだよね(旅行会社視点)」と父。うん……それは想像しただけでクレームの嵐。
とはいえ、次の便になると、セブに着くのが昼頃になってしまい、お迎えの時間に間に合いません。困ったなあ、と我々が思案していると、受付のお姉さんが「この客は振り替えしてくれなさそう」と思ったのか「ちょっと上司に相談するので、待ってもらえますか」と言います。しばらくすると、上司のお姉さんがやってきて、PC画面を見ながら、2人でなにやらやりとりしはじめます。やがて、受付のお姉さんが顔をあげ、「他の方が振替してくれたので、乗れることになりました!」と言って、チケットを発行してくれました。
ほっとしたところで私たちは、ホテルで用意してもらった朝ごはんのお弁当を食べました。それにしても、オーバーブッキングが起きた場合、すべての客に振り替えを打診するわけではないですよね。気になったので、声をかける人の基準があるのか、父に尋ねてみました。すると、ビジネスで来ていそうな人には声をかけない、旅行者の場合は時間の融通がきくことが多いから声をかける、とのことでした。
個人的には、私たちが優しそうに見えた(反論しなさそうに見えた)から声をかけたのかな~と思いましたが、そういう要素もあるのですね。
飛行機を待っている間に上の広告を見て、いろいろ考えていました。「リゾート地を歩くカップル」といった絵ですが、女性がフィリピン人であるのに対し、男性は西欧系の白人です。リゾート地に連れていってくれるような男性は、貧しいフィリピン人ではなく、金持ちの白人が妥当なのかもしれません。
また、広告映えさせるために、背の高い白人男性を起用している可能性もあると思いました。なぜなら、フィリピン人の男性は総じて背が低いからです。調べてみると、男性の平均身長は165cmでした。一般的に、気候が温かいほど生物は小さくなるため、南国の人の背が低いことは当然です。しかし、西欧的な美的価値観に当てはめると、女性と男性の身長差が大きいほうがビジュアルとしてよいため、背の高い白人男性を起用したのでしょう。
あるいは、「白人男性と結婚した女性は勝ち組」のような風潮があるのでしょうか。白人男性なら公用語である英語が通じる上に、フィリピン人と比べると金持ちだからです。という感じで、いろいろ思案してしまいました。
個人的には、よほどその人のことが好きでない限り、国際結婚はしないほうが無難だと思っている派です。文化的価値観の異なる人と毎日一緒に過ごすことは、想像以上にストレスだと思います。例えば、フランス人の場合、表に見える服だけでなく下着にまでアイロンをかけると聞いたことがある(ほんとうに?笑)ので、家族分のあらゆる服のアイロンかけをしなければならない日もあると想像すると、うんざりします。それでも相手が大好き! というならぜんぜんOKですけどね!
飛行機に乗る列には、おそろいのスポーツウェアに身をつつんだ学生が何十人もいました。土曜日だったため、たぶん、セブに遠征試合にでも行くのでしょう。この団体がオーバーブッキングの要因かもしれません。
C島について
これから一泊するC島について、簡単に紹介します。観光地として誰でも訪れることができるので、実名をだしたほうが島の宣伝になるかもとも思いつつ、関係者の方(父とか)に記事を発見されると恥ずかしいので、名前をぼやかしています……!
C島はマクタン島の沖合にある島で、島を横切るのに歩いて7分、一周するのに歩いて20分程度の、小さな島です。日本人のS氏が島のオーナーであり、購入してから33年が経ちます。正確にいうと、外国人がフィリピンの島を所有することはできないため、S氏個人ではなく、S氏の法人が島を所有しています。
法人が島を所有しているケースとして、その島をリゾート宿泊施設にする場合がイメージしやすいかもしれません。マクタン島の沖合はサンゴ礁が豊かで、リゾート地となっている小さな島がいくつもあります。
ただし、C島はリゾート地ではありません。S氏が島を購入したとき、島には230人ほどの現地の方が暮らしていました。オーナーが退去を命じた場合には、島民は出て行かなければなりませんが、S氏はそうしませんでした。S氏は自分がオーナーのあいだ、「土地を使わせていただいている」という感覚でおり、島民の従来の暮らしを尊重しながら、島の環境をよりよくする行動(例えば樹を植える、小学校や中学校をつくる、図書館をつくるなど)をはじめました。
C島を一言で表現するなら、「持続可能な社会の実践の場」と言えるかもしれません。島の面積の30%が島民の居住エリア、60%が島の暮らしを学びに来る人の滞在エリア、10%が公共の砂浜エリアとなっています(砂浜は法律で、あらゆる人が利用できる公共のものと定められている)。230人だった島民の数は、その暮らしやすさから、現在では700人ほどに増えました。
島民の職業の割合として多いのは漁師で、獲った魚を近くのマクタン島やボホール島で売って生計を立てています。またオーナー法人が島の産業として育ててきたのが、キルトの製作です。キルト製作のプロの先生(S氏の奥さんでもある)が島の人びとに作り方を伝授し、南国らしい楽しげなキルトが作られるようになりました。
S氏と父はビジネスパートナーで、私は高校生の頃から、この島のことを、父から聞いて知っていました。フィリピンに語学留学をしたときに、行ってみようと思ったのですが、結局行けずじまいで、今回島を訪れることを楽しみにしていました。
島へ向かう
送迎の車によって、マクタン島の港にやってきた我々は、すでに島の方が数人乗っている、モーターボートに乗り込みました。島民たちは港に来るついでに、必要な買い物や用事を済ませたみたいです(親子も2組いました)。
モーターボートは、エンジンが前方向への推進力を与える以外は、ただのボートであり、方向の調整を手動でする必要があります。島民のお兄さんが、長い竹の棒をつかって漕ぎ、方向を調整しました。その後、別のお兄さんが後方のエンジンをかけて、ボートが進みはじめました。
島まではボートに乗って約1時間です。波の表面を滑り進んでいく感覚が伝わり、全身で風をあびるので、マリンスポーツをしている気分でした。最初は少し怖かったですが、徐々に慣れて風や景色を楽しむことが出来ました。
島が近づいてくると、大量のモーターボートが停泊していることが分かりました。あとで確認すると、公共空間の浜辺では、日帰りでダイビングの客を受け入れているらしいです。この日は台湾人のダイビング客が200名ほど滞在していました。浜辺にて、島民が飲食物を売ってよいことになっているため、客が多いと島民は喜びます(儲かるから)。
ただ、オーナー法人は複雑に思っているようすでした。これだけ人が多いとサンゴ礁への影響も大きく、「本当は影響が少ない人数だとありがたいんですけどね」と、あるスタッフさんがぼやいていました。
豊かな暮らしの体現を目指す島といっても、日本人オーナー側が実現したいこと(長期的な安定経済)と、島民側が実現したいこと(目先の利益)は異なるため、思ったより複雑で難しい問題が累積しているのだと、早くも気づきはじめる私なのでした。この島は、決して手放しでユートピアを喜べる場所ではないのです。
宿泊エリア
島に着いてすぐに、宿泊エリアで「母屋」と呼ばれている、メインの建物に案内されました。そこで冷たいジュースをいただきながら、S氏や奥さん、そのほかスタッフの人たちと挨拶します。母屋に近づくと、放し飼いされている犬たちがわー! と寄ってきて、犬好きな私としては至福でした。島のなかには犬が100頭近くいて、みんな放し飼いにされているため、「犬が苦手な人には勧めにくい観光地なんだ」と父がぼやいていました。
私は伝統的な竹造りの小屋に泊まることを、少し楽しみにしていましたが、我々が泊まるのはロッジだそうです。母が足の指を怪我していたため、小屋の階段を登り下りするのは大変だろうということで、そのようになりました。
ロッジとはいえ、エアコンはありません。島の電気はすべてソーラー発電でまかなっており、エアコンに使えるような電気はないのです。またシャワーもお湯ではなく水です。しかし気候が蒸し暑いため、水のシャワーは気持ちよいです。ドライヤーに使う電気もないため、髪は自然乾燥させます。
空調機器として唯一、部屋の天井にファンがついており、「南国風のカフェで見かけるファンは、飾りではなく扇風機の代わりだったのか」とはじめてありがたみを知りました。室内には蚊が数えきれないほど飛んでおり(戸や窓に隙間があるのだと思う)、蚊取り線香をずっと焚いていました。
滞在中の食事は、決まった時間に母屋で提供されます。30人ほどが座れる長机に、滞在者全員が座って、お話しながら一緒に食事をします。食事内容はごはんと、3種類ほどのおかず、食後にフルーツとなります。有料になりますがお酒も飲めます。
滞在中、4回食事をごちそうになりましたが、いただいたフルーツはスイカ、マンゴー、バナナ、ドラゴンフルーツでした! どれも本場の果物なので、おいしかったです。
食事は母屋の屋根の下(つまり屋外)でとるため、犬が食事の間じゅう、誰かの足元で寝ていてかわいかったです。また屋外なので、蠅が常時、食べ物に止まっています。
竹造りの小屋を見学
父が(仕事のために)竹造りの小屋を見学するとのことなので、母と私も同伴させてもらいました。数年前の大型台風によって、以前あった小屋は壊れてしまい、現在あるのは新しく建てた小屋だそうです。そのときの台風によって、海のなかも大きく損傷を受け、サンゴ礁が以前と比べてスカスカになってしまいました。この時期には吹いているはずだった風も、今年は吹かないとのことで、この島も異常気象の影響を感じているようでした。
竹造りの小屋をすべて含めると、最大30余名が宿泊できるようになっており、日本の高校生の修学旅行にも使われています。こんな小屋で海を見ながら、クラスメイトと一夜を明かすのは、とてもよい青春の思い出になりますね。
島民エリア
その後、島民の方が村のなかを案内してくれました。
案内してくれたのは若い女性でした。英語でペラペラと説明してくれるのですが、歩くのが速くて、父と母は後ろのほうに離れてしまいました。最初は3人に向かって説明してくれていたのが、私がウンウン頷いて反応していたからか、それとも自分と歳が近そうだなと思ったのか、しまいには私単体に話しかけていました(笑)。
女性「あの2人はお父さんとお母さん?」
私「うん」
女性「じゃあ、ここにはバケーションで?」
私「そうだよ」
女性「歳はいくつ?」
私「今年30歳」
女性「ほんと? 私より年下かと思った!」
私「あなたは?」
女性「28歳。兄弟はいる?」
私「兄が2人。あなたは何人兄弟?」
女性「9人。兄もいるし弟もいるし……」
9人兄弟!! 私の祖父母世代の兄弟数ですね。9人もいたら名前をつけるのが大変そうです。オーナー家族さんと話していたときに、「島民の人はどんな名前なんですか」と尋ねると、「昔はオアナ(花という意味)とか、伝統的な名前が多かったけれど、今はキリスト教系の名前がほとんど」とのことでした。キリスト教系とはつまり、聖人などに由来している名前ということです。ちなみに、島民の9割はキリスト教徒だそうです。
浜辺でたたずむ
私たちはロッジで昼寝をした後、涼しくなってから浜辺を散歩しました。ダイビング客は14時ごろには帰るため、浜辺は静かで、穏やかでした。滞在中の日本人や、島民たちも夕暮れを見ながら涼んでいます。ちなみに、島に滞在する観光客の9割が日本人だそうです(ダイビング客をのぞく)。
夜の宴
夜ご飯のときに、そのとき滞在していた人たちと自己紹介をし合いました。全員日本人で、フィリピンの語学学校に滞在している大学生(週末は休みなので島に来た)、インターンシップで島の観光業のお手伝いしている大学生、S氏の友人夫婦、S氏の家族といった顔ぶれでした。また、スタッフさんとして、島民の方と結婚して暮らしている日本人女性が2人いらっしゃいます。
「なぜ島に来たのか」的なことも順番に言っていくのですが、大学生たちのコメントが意識高すぎて、意識低い私なんかがここにいてすみません、と思いました(笑)。でも、私もあの子たちの歳くらいの頃は、同じように意識高かったかもな、若いってすごいな、と思いました。私より年上の大人たちは、彼らの話を温かく見守りながら聞いており、戸惑いながら聞いている私とは、成熟度が違うと思いました。私ももう少し年を取れば、あの域になれるのかもしれません。
途中で停電になったため、ランプで明かりを取りつつ、お酒を飲みながら、夜おそくまで皆さんと話していました。
おわりに
今回はフィリピン旅行その4でした。次回は、最終回です。