2024/5/19(日)に開催される「文学フリマ東京」に出店することになりました。そこで今回は、準備状況や心境などを語ります。これから初出店する人の参考になればと思います。
下見に行ってみた
文学フリマとは、文学作品(同人誌)の展示即売会のことです(公式サイトはこちら)。コミックマーケット(コミケ)やデザインフェスタの書籍版だと思ってもらえばイメージしやすいと思います。
イベントの存在を知ったのは昨年2023年で、面白そうだな、いつか自分も出店してみたいな、と思っていたころ、ちょうど東京での開催があったので、下見もかねて行ってみました(2023年12月)。その日は少し天気も悪くて、外出するのは億劫だったのですが、結果として行ってみてよかったです。
会場はジャンルごとに区分けされており、私は「小説|ファンタジー・幻想文学」の区域を一通りみてみました。人気なジャンルは「評論・研究|○○」のジャンルである印象を受け、小説は他と比べて人が少ないようでした。そして小説のなかでも、とりわけファンタジー・幻想のジャンルはあまり人気がないような印象を受けました(しかし、この傾向は書店でも同じですね)。
また予想した通り、ファンタジー・幻想ジャンルで販売されているのは、漫画タッチなイラストが表紙の、ライトノベルが多かったです。とはいえ、歩いていればよい出会いもあるかもしれない、と見て回っていると、幻想的な短編集を売っているブースがあり、私の好みに合いそうだったので、購入しました。いろいろ見て回りましたが、買ったのはこの1冊だけで、面白かったので帰りの電車ですべて読み終わりました。
イベントを客として見て回り、思ったのは、以下のことでした。
- 初見の作家さんの同人誌に500円以上は出したくない
- 初見の作家さんの長編小説を買うにはハードルが高い
- 市販の本と同じで、同人誌もまず表紙を見て手に取る
- ブースは目を引くレイアウトにしたほうがいい
まず①についてです。商業出版の小説の場合には、複数の書籍関係者が「売れる」と判断して売っているので、ある程度の品質が期待できます。ところが、同人誌の場合には品質が博打です。商業出版では販売できないような、ニッチなニーズに応える傑作もあれば、まったく面白みのない作品も(可能性としては)あります。そのため、初見の作家さんから買う場合には、そのようなリスクを覚悟した上で買わなければなりません。
もちろん、その場で試し読みもできますが、作家本人が目の前にいるので落ち着いて読めません。せいぜい1-2ページを読んだくらいで、買うかどうか判断することになります。よって、そのようなリスクを考慮すると、初見の作家さんの同人誌には500円以上を出したくないと思いました。500円あれば、ページ数の少ない海外文学を文庫で買えるわけですし。
次に②「初見の作家さんの長編小説を買うにはハードルが高い」についてです。これも①と関連するのですが、初見の作家さんの本を買う場合は、少なくとも私は一冊しか買いません。シリーズもので何巻も続いている小説を、初見の作家さんから買いますか? いいえ買いません! リスキーすぎる。まずは一冊買ってみて、試しに読んでみて、面白かったら次回のイベントで続きを買うかもしれません。よって、即売会の性質と長編小説は相性が悪いと思いました。
つづいて③「市販の本と同じで、同人誌もまず表紙を見て手に取る」についてです。文学フリマにおいて、本の表紙は非常に重要だと思いました。なぜなら、第一に、(これは市販の本もそうだが)本の表紙から内容のテイストをある程度、予想できるからです。例えば、表紙が漫画調のイラストの場合、内容のテイストはラノベ風だろうと予想できます。
本の表紙が重要な理由として第二に、表紙に作家さんの感性が現れるからです。同人誌の場合、表紙は作家さん本人によって決められています(自分でデザインするか、専門家に自分のイメージを伝えて外注している)。すなわち、表紙にその人の芸術的な感性が現れているのです。その感性が自分好みな場合、本の内容も好みである可能性が高いので、本の表紙はその本を(購入するかどうかは別として)手に取る判断をする一助になります。
最後に、④「ブースは目を引くレイアウトにしたほうがいい」についてです。文学フリマは文学作品、つまり文字を主体とした即売会なので、ブースのレイアウトが地味になりがちです(デザインフェスタの場合には華やかだが)。よって、レイアウトが凝っていると、自然とそのブースに目がいきます。また、③とほぼ同じ理由で、ブースのレイアウトには作家さんの感性が表れるので、レイアウトも本を(購入するかどうかは別として)手に取る判断をする一助になります。
以上の4つの学びを踏まえて、自分も文学フリマに出店してみよう、と思いました。
出店する目的を考えてみる
文学フリマに出店申し込みをするにあたり、すぐに気づいたことがありました。このイベント……利益がでないどころか、赤字覚悟で出店するの!? というか、文学フリマに限らず、同人誌や作品の即売会(コミケやデザフェスも含め)の場合には、すべからく利益がでなさそうです。なぜなら、ブースの場所代である、出店料がかかるからです。
具体的にいうと、利益を出すためは、<全体の売り上げ>-<出店料+原価(印刷代など)>がマイナスにならないようにする必要があります。さらにいうなら、<出店料+原価>には自分が作品のために時間をかけた人件費?創造費?が含まれていないのです。なんてこった! もし利益を出す場合には、販売価格をとんでもない高額にする必要がありますが、シロウトの作品を高額で売るなんて考えられません。
なお、「赤字覚悟」というのは極端な話、作品がまったく売れない場合もあり、その際には、ただただ出店料と作品原価が自分のお財布が出ていくということです。悲しすぎる。
では、なぜ世の中の人たちは赤字を覚悟でイベントに出店するのでしょうか。一つには応援してくれる人との交流を楽しむ、もう一つには新規顧客を獲得する、という理由がありそうです。より重要なのはおそらく後者、新規顧客を獲得するという目的です。つまり自分を売り込み、顧客を増やすために、世の中の人はイベントに出店するのでしょう。
というわけで、私も応援してくれる人を新しく増やす作戦を念頭に置いて、準備を進めようと思いました。そのためには、先ほど下見で得た学びが役に立ちそうです。つまり、本の価格は500円以下にして、本の表紙とブースのレイアウトにこだわってみましょう。なお、本の内容はすでに決まっていて、昨年6月から書き溜めている短編をまとめた内容にする予定です(長編ではないのでセーフ)。
500円という価格について、「適正価格」という面で考え直し、3回目の出店からは価格を上げることにしました。
文学フリマでの文庫本の平均価格は、ページ数にもよりますが体感600~900円くらいです。そこから極端に低い価格設定をしてしまうと、「その価格が当然」という風潮になってしまい、他の出店者さんの本が売れづらくなり、迷惑がかかるかもしれません。
しかし初めて参加する場合は、認知度がない分、価格を安めにするのはありかと思います。価格の決め方については、以下記事を参照ください。
本の表紙を考える
前述した通り、初めましての方に本を買っていただくには、表紙のデザインが重要であると予想できます。もちろん、白黒よりはカラーのほうが目を引くので、原価が高くなるけれどカラー印刷にするとして、さて、表紙をどうしましょう?
案としては、絵が得意な人に絵を依頼する……ということも考えました。イラストが得意な人は、よくpixiv(ピクシブ)というWebサービスを使って、1枚あたり1万円などで、絵の依頼を受けつけている印象です。しかし、なるべく原価を抑えたいし、今回が初出店で、本が売れるか予測がつかないので、できるだけ低コストで表紙を制作することにしました。すなわち、(へたで恥ずかしいけれど)自分が描いた絵を使うことにしました。
考えてみれば、自分が描いた絵には、自分の芸術的? 感性が表れているはずなので、本の内容とイメージが一致していて、案外よいかもしれません。つまり、私の絵を(万が一)気に入ってくれる買い手は、私が書いた小説も気に入ってくれる可能性が高そうです。少なくとも表紙詐欺(表紙がよいくせに、中身が壊滅的)にはならなそうです。うん、お互いによいかもしれない。
というわけで、本の表紙は自分の絵を使うことにしました。
フリーペーパーの形態を考える
「応援してくれる人を新しく増やす作戦」を念頭におくと、なにも本を買っていただく必要はないことに、しばらくして気づきました。文学フリマに出店している方の経験談ブログを読んでいると、たいていの人は、宣伝のために「フリーペーパー」という無料配布のチラシを用意しているようです。
ブースに立ち寄ってくれる方は、本を買ってくれるかは分かりませんが、フリーペーパーは(無料なので)たいてい受け取ってくれるそうです。作者の目の前でじっくり本を読むのは、やはり落ち着かないので、とりあえずフリーペーパーだけ受け取って、そこから本を買うかじっくり考える人もいるとか。
そう、本を買っていただく必要はないのです。(恐れ多くも)私の名前を知っていただき、Twitterなどをフォローしてくだされば、「応援してくれる人を新しく増やす」という目的は達成されるわけです。すなわち、フリーペーパーを配るとは、自分の名刺を配って営業活動をするようなものなのです。
フリーペーパーの形態についてはけっこう悩みました。自分がブースの訪問者だとして、文字がびっしり書かれたA4用紙など受け取りたくありません。しかし、文字が書かれていなければ、その人がどんな作品を書いているかを、知ることができません。作品を試し読みしたい人もいるだろうし……。
そこでひらめきました。私は小説をWeb上にすべて公開しているので、このブログの「創作物語」のカテゴリに飛ぶ、QRコードをつければ、文字をほとんど書かなくて済みます。加えて、書くことは最小限で済むため、小さな用紙で済むというメリットもあります。
では、本の表紙にする予定の絵を印刷した、ポストカードにしてみましょう。文字が書かれた紙は受け取りたくなくても、ポストカードなら受け取りたくなるかもしれません。というわけで、フリーペーパーは下図のような形態になりました。
あくまでフリーペーパーなので、紙の質も印刷の質もこだわりません。いちばん安くできる印刷所を探して、プリントパックに注文しました。なんと、200枚の印刷でたったの1300円(送料込み)! 目も当てられないほど品質が悪かったらどうしよう、と不安でしたが、届いた実物を見てみると、予想よりもずっとよくて、QRコードもきちんと読み込めました。満足です。
問題は、200枚も配りきれるかということですね……! がんばります。
設営の準備を進める
「応援してくれる人を新しく増やす作戦」を念頭におくと、できるだけ多くのイベントの来場者に、ブースに立ち寄っていただく必要があります。なお、出店者はブースの外から客引きすることを禁止されているため、フリーペーパーを受け取ってもらうだけだとしても、まずはブースに立ち寄っていただかなければなりません。
そのためには、前述した通り、ブースのレイアウトが重要です。目を引くレイアウトにするには、「立体的にすること」がキーワードなような気がします。イベント当日には、幅90cm×奥行45㎝の机のスペースを自分の領域として使うことができます。その机の上で、立体的にものを見せることが重要だと感じました。
具体的には、他の方のブログを読んでいると、以下のレイアウトをしている方が多い印象でした。
- ポップスタンドを使って、A3くらいの大きめのポスターを吊るす
- 販売する本はブックスタンド等に立てかけ、表紙がよく見えるようにする
というわけで、ブースの設営に使えそうなものを、100均(ダイソー)で買ってみました。
まずはブックスタンドです。文房具売り場に売っていたのは、プラスチック製のかさばるものだったのですが、インテリア売り場に、かさばらない(しかもシンプルでオシャレな)よいスタンドがありました! 今回販売するのは1冊のみですが、ゆくゆくは2冊、3冊と増えるかもしれないので、将来のことを考えて、3つ購入しました。
つづいて、はがきスタンドです。こちらは、フリーペーパーを立てかけるために使います。ネットで調べてみると、チラシなどは、平置きしておくより、立てかけておいたほうが、顧客の手に取ってもらいやすいというデータがあります。また、せっかく絵を印刷したのでで、絵がよく見えるためにも立てかけたいと思いました。
つづいて、フォトフレームです。よく考えてみると、フリーペーパーの裏に印刷した自己紹介文は、文字も大きいので、そのままブースに飾ってブース紹介にできます。そのため、フリーペーパーの裏面を見せるためのフォトフレームを買いました。当日は荷物が多くなるので、できるだけかさばらず、軽いものを選びました(こちらはプラスチック製です)。
つづいて、ホワイトボードです。席を外す際に、「ご自由に見てください」などメモを残したいときがあると思い、買いました。できれば自立型の、小さめのものがあればいいな、と思っていたところ、ぴったりのものがありました! まさにイベント用に存在しているようなホワイトボードです。
今まで挙げた4つの品を組み合わせると、こうなりました。いい感じですね! あとは、100均以外で以下を購入しました。
- ポップスタンド(上に2つクリップがあり、紙を吊り下げられる。これがあると設営に高さがでて目立つ)
- カルトン(お金の受け渡しに使う。受け渡しの際、手が触れるのが嫌な方もいると思うので)
- テーブルクロス(机の下の荷物を隠せて、レイアウトがきれいになる)
さて、これで見栄え良い設営のためのグッズはおおかた揃いました。あとは肝心の本を作ることに専念できます。4月中旬には印刷データを入稿したいので、新しい短編をあと2つくらい創作したいと思っています。また、全体的に内容を見返して、改めて推敲をしたいと思っています。
イベントの詳細をふりかえり
文学フリマ東京38の詳細は以下です。規模が大きくなったことから、今回から(東京開催に限り)入場料を取るようになりましたので、お気をつけください……!なんと、2000ものブースが出店されるそうです。
- 日程:2024/5/19(日)12:00〜17:00
- 入場料:1000円
- 場所:東京流通センター 第一展示場・第二展示場
もしもイベントに行く予定で、sousouのフォロワーさんだと名乗り出てくださった方には、日ごろの感謝を込めて、オリジナル栞を差し上げます。もちろん、一般客を装って声をかけずに去っていただいても問題ありません(私もよくやります)。その場合、栞は差し上げられませんが……(できれば声かけてくださると嬉しいな!)。
おわりに
今回は、文学フリマ東京に出店するにあたっての準備状況や心境を、自由につづりました。
「応援してくれる人を新しく増やす」という目標を立ててはみましたが、そんな目標がなくても、イベント当日が今からとても楽しみです。たとえるなら、文化祭の準備をしているときの感覚に似ています。自分でつくったモノを売るという行為は、人の幸せに一程度かかわっているのかもしれません。
残りの期間で、新しく短編も増やして、よい本をつくれるようにがんばります! お読みいただき、ありがとうございました。
出店後の振り返りはこちら▼