中世ヨーロッパ風ファンタジーの創作をしようと思ったとき、必要となるのが参考資料です。「自分が欲しい資料をどのように探せば分からない」という方のために、本で調べものをする際の、探し方ガイドをつくりました。
基本的には、歴史に限らずどのような分野の資料を探す際にも使えるガイドです。
人文学系の大学生が身につける、調べものの仕方を踏襲しているよ。記事の最後で、中世ヨーロッパの基本を押さえるための、おすすめ本を紹介するよ。
想定される質問 – ネットで調べるのはだめ?
本で調べものをすることは、人によってはハードルの高い行為かもしれません。たしかに、Wikipediaなどのサイトを閲覧して、ネット上で情報を集める行為は、手軽にできてよいです。しかし、以下のようなデメリットがあります。
- 出典が明記されていない場合がある
- 内容が誤っている場合がある(Wikipediaは誰でも編集できるため、素人が書いている場合もある)
- 体系的に学ぶことができない(情報の濃淡がまちまち)
よって、信頼できる情報を得たいと思ったときには、本で調べることが基本になります。
プロの小説家・漫画家なども、作品に必要な調べものをする際には、ネットではなく本を参照しています。そのため、本で調べものをする際の流れを覚えて損はないと思います。
ネットで事前調べ
それでは、ネットは全く役に立たないのかというと、そうではありません。目ぼしい本の見当をつけるために、ネットで事前調べをしておくと、自分がアクセスしたい本に、早く辿りつくことができます。
まずは、ネットでの事前調べの仕方を解説します。
関連ワードを集める
事前調べでは、自分が知りたい情報に関連するワード(単語)を集めましょう。たくさんの関連語彙を集めておくと、実際に本を探す際に、題名や目次を見て、自分の知りたい情報が書かれているかどうか、判断できるからです。
例えば、中世ヨーロッパにおける、服の色の意味を知りたかったとしましょう。中世期には、貴族がまとう服の色として、赤や青が一般的で、他の色にもさまざまな意味がありました。
まずは最初に思いついた検索ワード「中世ヨーロッパ」「色」でGoogle検索してみます。すると、検索窓や、ページ最下部のサジェストキーワード(他の人はこちらも検索)に、以下のような候補が出てきます。
- ヨーロッパ 色 イメージ
- 階級 色 順位
- 中世ヨーロッパ 色 意味
「イメージ」「階級」「意味」なども、関連語彙として使えそうですね。検索エンジンのおすすめワード以外にも、検索結果に出てきた各ページをのぞいてみることで、自分が調べたいことにぴったりな用語が見つかるかもしれません。
このステップを踏むことで、中世史研究者に使用されている、専門用語なども知ることができます。例えば、「奇跡」「ローマ・カトリック教会」「異教」「市壁」「都市」「粉ひき屋」などは、日常ではあまり使わない用語です。
本に目ぼしをつける
前のステップで、ある程度の関連ワードを集めたあとは、知りたいことが載っていそうな本に、ネット上で目ぼしをつけていきます。検索窓に「関連ワード」+「本」の単語を入れて、検索してみましょう。
この際、Amazonの関連書籍機能(自動でおすすめ表示される機能)を使うのもよいです。ただし、絶版になっている昔の名著などは、Amazonでは出てこないので注意してください。商品がなければおすすめされないためです。
例えば、中世ヨーロッパにおける色の意味について知りたい場合、よさそうな本として以下が見つかりました。
- 徳井淑子『中世ヨーロッパの色彩世界』
- 徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』
- ミシェル・パストゥロー『青の歴史』
- ミシェル・パストゥロー『赤の歴史文化図鑑』
このとき、頻繁に出てくる著者は、その分野の専門家である可能性が高いので、著者の略歴も確認しておきましょう。日本国籍の研究者の場合には、業績管理データベースのresearch mapで名前を検索すると、より詳細な研究業績を知ることができます(国立研究開発法人科学技術振興機構が運営)。
先の例でいうと、徳井淑子は、西洋中世期の服飾史が専門の研究者です。ミシェル・パストゥロー(フランス国籍)は、西洋中世期の象徴学(紋章など)が専門の研究者です。
パストゥロー『青の歴史』を参考文献の1つにして、sousouは以下の記事を書いたことがあるよ。
略歴から、その著者を信頼できると判断した場合には、著者名で検索して、その著者の本の一覧を調べるのもよいです。ちなみに、徳井淑子もミシェル・パストゥローも、名の知れた中世史家です。とくにパストゥローは、世界的な紋章や色彩の大家といっても過言ではなく、徳井淑子の『中世ヨーロッパの色彩世界』は、パストゥローの著書を参考にして書かれています。
よさそうな本にいくつか目ぼしがついたあとは、全国(※)の図書館の所蔵資料を検索できる国立国会図書館サーチで、その本が所蔵されている図書館を調べます。
※ただし、国立国会図書館とデータ提携している図書館にかぎる。ある程度の蔵書量がある公共図書館なら、基本的にはデータ提携されている。
そして、自分が無理なく行ける範囲の図書館に蔵書があるか、確認します。あるいは、いつも訪れている「行きつけの図書館」があるなら、最初からその図書館のサイトで、蔵書検索してみましょう。ただし学術書を探すなら、図書館の蔵書量は50万冊以上はあったほうがいいです。
上記に記載した方法は、独力で行う本の探し方です。高校・大学等の教育機関に所属している方は、学校にその分野に詳しい方がいると思うので、その先生(研究者)に尋ねてみるのが一番よいです!
もしあなたが、西洋史とは全く関係ない学科を専攻していたとしても、「こういう理由で○○について書かれた本を探しているのですが……」と礼儀を正しく想いを伝えれば、同じ学校に所属しているよしみで、きっと相談にのってくれると思います。
自分の専門分野に対し、学生さんが興味を持ってくれている、と分かるのは、先生(研究者)にとって嬉しいものです。
論文よりは書籍が無難
ネットで目ぼしい本を探しているなかで、関連する学術論文が出てくることがあります。ときには、PDFデータ化された状態で、ネットで公開されている場合もあります。
しかし、その分野の通説や基本を知りたい場合に、論文を参照するのは微妙です。なぜなら論文は、既存研究に対し新しい視点を加える目的で書かれているからです。
言い換えると、論文を1本読んだだけでは、その分野を体系的に学ぶことはできません。よって、その分野において初心者の場合には、学術論文を参照するより、学術書を参照したほうが無難です。
論文と書籍のすみわけは、大学出版部協会理事長の橋元博樹さんによると、以下の通りです。
- 学術論文:同じ領域を研究している研究者向け。
- 学術書:一般人や別領域の研究者向け。
参考:「学術書の価値を伝えていく」大学出版の使命 橋元博樹・大学出版部協会理事長に聞く(2024年11月28日閲覧)
図書館で実物を見る
ネットで事前調べをして、目ぼしい本に検討をつけたあとは、公共図書館へ行って、実際に本の中身を見てみます。
調べものをする際に、使用する図書館の蔵書量は、50万冊以上であることがのぞましいです(※)。自身が暮らす都道府県で、いちばん大きな公共図書館に行けば、一般的にはこの条件を満たします。「図書館名 蔵書量」で検索すると、その図書館の蔵書量が出てくるので、調べてみましょう。
私が生まれ育った町には、蔵書量が10万冊程度の図書館があります。子供の頃は、その図書館で楽しめたのですが、大学生になって、専門書を探そうとしても、全く目ぼしい本がありませんでした。おそらく、ファミリー向け(児童書中心)の図書館だったのだと思います。
一方で、学生時代に使用していた、大学図書館の蔵書量は50万冊程度で、研究に必要な本が満足にありました(ちょっと足りないと思うこともあったけれど、初心者のうちは十分なレベル)。そんな経験から、数を定めてみました。一般的に考えても、50万冊を超える蔵書量の図書館は「大きい」「立派」といえると思います。
日本で最も蔵書が多いのは、東京都千代田区にある、国立国会図書館です。しかし、わざわざそこまで行かなくても、たいていの本は(とくにその分野の名著は)、自分が暮らしている都道府県内で最も大きな図書館に行けばあります。ときどき、「国立国会図書館はなんでもあってすごい!」という話題が上がりますが、数があればいいというものではありません。大切なのは質で、質のよい本は、きちんとあなたの暮らしている都道府県にあります。
自分で調べてびっくりしたけど、日本は各都道府県に、立派な図書館が設置されているという点で、とても恵まれた国だね。
古代期に世界最大の図書館といわれた、アレクサンドリア図書館ですら、70万巻の蔵書量なのに、そのレベルの公共図書館が各都道府県にあるんだね…(感涙)。この恵みに感謝して、図書館を使い倒そう。
公共図書館以外に、大学図書館も蔵書が充実しています。そのため、家の近くに大学がある場合には、大学図書館の一般利用も視野に入れるとよいでしょう。大学によって使い方のルールや、利用料金が異なるので(無料の場合もある)、個別に調べてみましょう。
鳥取県立図書館は、全国の公共図書館・大学図書館に対する調査(2012年※)にて、活動が優れていることで注目している図書館として、国立国会図書館をのぞき全国1位になりました。以下の2022年度のデータからも、同図書館の取り組みが素晴らしいことが分かります(同図書館HPの令和5年度統計データより)。
- 個人貸出数は全国4位
- 人口一人あたりの資料費は全国2位(前年まではずっと1位だった)
- 人口百人あたりの蔵書冊数は全国1位
今年2024年には、同図書館は「文字・活字文化推進大賞」(高橋松之助記念顕彰財団主催)を受賞しました。公共図書館は東京の専門業者に本を発注することがほとんどですが、鳥取県立図書館は、1931年の開館当初より、地元の書店から図書を購入し、地元の書店利益に貢献しています。この方式は「鳥取方式」と呼ばれています。
地域の取り組みしだいで、公共図書館の充実に好循環が生まれる例ですね。
※参考資料「慶應義塾大学糸賀研究室による国立国会図書館向けサービス・事業に関する調査」2012年
西洋史の本棚を眺める
図書館では、あらかじめ見当をつけていた本の他に、他の本も見てみます。ネットでは検索エンジンの仕組み上、最近発売された本ばかりが上位に出てきます。そのため、実際に本棚を見ることで、思いがけずよい本に巡り合うことも多いです。とくに、古きよき名著は、このようなときに出会います。
この時に役立つのが、事前にネットで調べておいた、「関連ワード」です。関連ワードを念頭に置きながら、背表紙に気になる題名が書かれている本を、引っ張り出してみましょう。
図書館の本棚は、ジャンルごとに分類されています。西洋史の本を探している場合には、「西洋史」「世界史」「歴史」などの名前がついている棚にいくと、目当ての本が見つかります。西洋史ジャンルの、本棚における本の並び方は、中世期までは時代別、近世期以降は国別になっていると思います(中世期までは「国家」という概念がうすいため)。
私が他によく見る本棚は、「民俗」「風習」系です。このあたりの本棚には、文化に関する歴史、民俗学の本が多いです。
歴史ものを調べている際、ときに、歴史以外の棚に本が収納されていることがあります。私が最近経験した例だと、中世期における実業家の誕生の歴史を書いた、ジャン・ファヴィエの『金と香辛料』は、経済学の棚に、経済史系の本と一緒に収納されていました。
よって余裕があるときには、自分の知りたい情報がどのジャンルに分類されうるか、柔軟に考えて、歴史以外の本棚も見てみるとよいでしょう。
新刊の場合は書店でもOK
ネットで目ぼしをつけた本を実際に見るには、図書館に行く以外に、書店へ行く方法もあります。その年に出版された、新刊の場合には、間違いなく書店(※)にあるので、購入を考えている場合には書店へ行くのもよいでしょう。
※ただし、学術書が置いてあるような大きな書店、あるいは専門書店に限る。駅ナカにあるようなちょっとした本屋に学術書はない。
新刊でなくても、ここ5~10年ほどで出版された本は「最近の本」と呼ぶことができるので、書店に陳列されている場合が多いです。
本を手に取ったときに見るべき情報
本を手に取ったあと、自分の知りたい情報が書かれているかどうかを、どのように判断すればよいのでしょうか。見るべき箇所は、重要な順に、①著者の略歴、②目次、③目ぼしい章のページ、の3箇所です。
この方法は、あらゆる学術書や技術書に使える、本を見る際の基本だよ。
1. 著者の略歴
本の中身を見る前に、著者がその分野でどのような立ち位置なのかを確認します。それは本の最後のページか、表紙の袖に記載されている、著者の略歴を見ることで知ることができます。
学術書の場合、どこかの大学に所属している(いた)研究者なら、その分野の専門家であると判断してよいでしょう。翻訳本も同様です。さらに、「○○大学名誉教授」(※)などと書かれている場合には、日本においてその分野の大家であると判断してよいです。
名誉教授とは、法的・国際的に認められた学術称号の一つのことです。大学教授その他として多年勤務した上に、学術上で顕著な功績があった人に、勤務していた大学から退職後に与えられます。
例えば、西洋中世期のドイツ民衆史を専門としていた阿部謹也は、「一橋大学名誉教授」という称号を持っています。これは阿部謹也が、その分野で著しい功績を残したことを意味します。実際に中世の民衆史を研究する人にとって、阿部謹也の学術書・学術論文などは避けて通れません。
逆に、著者が研究者でないかつ、学問に関する実績があまりない場合には、信ぴょう性を疑ったほうが安全です。
もし著者が正式な(?)研究者でなくても、実績をたくさん残している人なら信頼できるね。例えば、アマチュア天文学者の関勉(せき つとむ)さんは、独学で天文学を学び、さまざまな小惑星を発見して天文学の発展に貢献した上に、2024年8月には、国際天文学連合の名誉会員にえらばれているよ。
アカデミック界は排他的であることが多いけれど、学問はあらゆる人に開かれていると嬉しいね。
2. 目次
著者の略歴を確認して、その本の信ぴょう性を担保できたあとは、目次を確認します。目次とは、本文の内容をテーマごとに分類し、見出しとして記載しているものです。よって、それを見れば本文にどんなテーマの文章が書かれているかを把握できます。
著者の略歴と目次は、購入の一助になるよう、Web上で公開されていることが多いよ。気になる本がある場合には、チェックしてみよう。
例えば、中世ヨーロッパにおける色の意味について知りたい場合、徳井淑子『中世ヨーロッパの色彩世界』を手に取ったとします。すると各章の題名について、以下の通り記載されています。
序 章 色彩文明の中世
第1章 中世の色彩体系
第2章 権威と護符の赤
第3章 王から庶民までの青
第4章 自然感情と緑
第5章 忌み嫌われた黄
第6章 子どもと芸人のミ・パルティと縞
第7章 紋章とミ・パルティの政治性
第8章 色の価値の転換
終 章 中世人の心性
これを読むと、第2~5章にかけて、赤、青、緑、黄の各色の意味について記載されていることが推測できます。Web上で公開されているのは、章の見出しだけですが、実際に本の紙面を見ると、各章における節の題名まで、詳しく書かれています。例えば、第1章の節として、以下の通り題名が記載されています。
第1章 中世の色彩体系
白・黒・赤の三色による色彩体系/中世人は何色を好んだのか/……(後略)
徳井淑子『中世ヨーロッパの色彩世界』講談社、2023年、目次ページより。
これを読むと、第1章では、中世ヨーロッパ人の色認識の概要が記載されていることが分かります。また、何色が最も人気だったのか、ということが書かれていると推測できます。
このように、本の目次を見ると、本文にどんなことが書かれているのかを把握することができます。この段階でも、事前調べした「関連ワード」が活用できます。
3. 目ぼしい章のページ(試し読み)
目次を読んだ段階で、「自分の知りたいことが書かれていそう」と判断できたのなら、その時点で本を借りる(あるいは購入する)ことができます。しかし、目次を読んだだけで判断できない場合には、本文にもざっと目を走らせてみましょう(※)。
※ここでいう「目を走らせる」は、試し読みの感覚です。書店で購入前の本を隅から隅まで読むのはいけません。
例えば、知りたいことについて、すでにある程度の知識が自分にあるとします。そのような場合には、本を借りても「目新しい情報がなかった」となりがちです。そのため、該当の章のページを開いて、自分の知らない情報が書かれているかどうか、ざっと眺める行為が必要になります。文章の構造として、章の冒頭か最後に、その章の概要が記載されているはずなので、そこを読めば十分でしょう。
まとめると、本に自分の欲しい情報が書かれているかどうかを判断するには、以下3つの箇所を見るとよいです。
- 著者の略歴
- 目次
- 目ぼしい章のページ
読了後は文献目録を見る
以上に記載したステップを踏んで、よい本に巡り合えたとしましょう。そのような場合には、さらに知識を深めるために、その本の文献目録を見るのがおすすめです。
文献目録とは、作者がその本をつくるにあたって、参考にした論文や書籍の一覧のことです。本文より後ろのページについています。文献目録がついている場合には、たいてい、その本の章(テーマ)ごとに文献が書かれています。
この一覧を見て、気になる本や論文があった場合には、実際に手に取ってみるとよいでしょう。あるいは、その時点では他の本を読むつもりがなくても、とりあえず一覧に目を通しておくのは有用です。なぜなら、その分野で著名な研究者の名前などをインプットできるからです。それは、次に調べものをする際に、役立つ知識になりえます。
こうして文献目録にまで目を通す習慣をつけると、芋づる式に知識を増やすことができます。
西洋史学は、当然ながら、現地の西洋で最も発展しています。そのため、読みたい書籍が日本語訳されていないケースが多々あります。
著名な書籍は、まず英語に翻訳されることが多いです。英語は世界で最も多くの人が使う言語なので、そうすれば多くの人に読んでもらえるからです。よって、外国語の文献を読めるようになりたいなら、様々な言語に手を出すよりは、まずは英語に力を入れて、英語の文献が読めるようになると、学問の幅が広がるでしょう。
しかし、人間が学問に裂ける時間は限られているので、そのためだけに英語を勉強するのはよくないかな、と個人的には思います。生活に必要な他の様々なこと(労働など)と天秤にかけて、やることの優先順位づけをして、それでも外国語の文献を読めるようになりたい!と思った場合には、まずは英語に力を入れるとよいと思います。
※もしあなたが学生で、英語を勉強する機会に恵まれているなら、英語を一生懸命勉強しておくと、将来とても役立ちます!
中世ヨーロッパの基本を押さえるための本3選
ここからは、西洋中世期の基本を押さえるための、おすすめの学術書を紹介します。中世ヨーロッパ風の創作をしたいけれど、興味のあるテーマが明確に決まっていない、という方に役立つと思います。以下に挙げる本を読んで、気になったテーマ・いいアイディアが思い浮かんだテーマについて、深掘りしていくとよいでしょう。
『ヨーロッパの中世』シリーズ全8巻(岩波書店)
まずおすすめしたい本は、2008年に岩波書店から出版された、全8巻の『ヨーロッパの中世』シリーズです。このシリーズは、世界の学術界において、西洋中世史の研究ブームが始まったときに、最先端の中世史を日本の広い読者層に紹介すべく、出版されました。中世期を専門とする11名の研究者が、それぞれの得意とする切り口で、中世史について紹介してくれます。
編集を代表して、池上俊一氏と河原温氏(※)は、以下の通り記載しています。
本シリーズを構成する8冊は、それぞれ性格の異なる8枚の「鏡」であり、これを合わせれば、ヨーロッパ中世の「全体」が見えてくる。この8冊を読まずして、ヨーロッパは理解できない、と確信している。
この言葉通り、中世史を学ぶ人がまず読む本として、このシリーズは知られています。私も史学を専攻していた大学生のときに、これらの本を読みました。大学図書館や大きめの図書館に行けば、中世史の棚にまず間違いなく置いてあります。本を読んだ人が、さらに学びを深められるように、文献目録も充実しています。
※両者とも著名な中世史学者で、先ほど記載した「名誉教授」の称号を持っています。
『図説 中世ヨーロッパの暮らし』(河出書房)
次におすすめしたい本は、2015年に河出書房から出版された、『図説 中世ヨーロッパの暮らし』です。先ほど紹介したシリーズ本の一部を執筆している、河原温氏と堀越宏一氏の共著です。
全国学校図書館協議会選定図書に指定されており、専門家が編纂していながらも、図で手軽に中世史を学べる本としてお墨付きです。全8巻のシリーズ本を読むのはハードルが高い、という方におすすめです。
私も以下の服飾シリーズを書く際にお世話になりました。
『西洋中世文化事典』(丸善出版)
最後におすすめしたい本は、2024年12/2に丸善出版から発売された『西洋中世文化事典』です。中世期を専門とする日本の研究者が集まってつくられた事典で、先に紹介した、池上俊一氏と河原温氏も編集に関わっています。
全16章・296項目で構成されており、2 名以上の専門家が協力して、各章の編集と項目選択を行っています。1 項目あたり見開き1ページで解説されているため、各テーマに関する学説の概要を、手軽に知りたいときに役立ちます。これからはこの本が、中世ヨーロッパ風の創作をする際の入口の書・必携の書になると思います。
実際に購入してみて分かった魅力を、以下の記事で解説しています。
おわりに
今回は、中世ヨーロッパ系参考資料の探し方について記載しました。以下の4ステップを踏むことで、必要な情報にたどりつけると思います。
基本的にこの方法は、歴史に限らずどのような分野の資料を探す際にも使えます。このガイドを活用して、ぜひ創作活動を充実させてくださいね。
以上、中世ヨーロッパ系参考資料の探し方ガイドでした。