はじめに
前回は倉吉にへ行った話をしました。今回は旅の3日目、足立美術館と玉造温泉へ行った話です。
足立美術館
足立美術館は、島根県安来市にある美術館です。何がすごいかというと、その美術館にある広大な日本庭園は、アメリカの日本庭園専門雑誌が行っている日本庭園ランキングで、2003年以来連続で1位なのです。アメリカ人から評価される日本庭園と、日本人がよいと思う日本庭園は違う気もしますが、ともかく一見の価値ある日本庭園であることには違いありません。ちなみに、ランキング上位には香川県の栗林公園も入っています。以前書いた栗林公園の記事はこちら。
また、足立美術館は横山大観の絵の所有数が多いことでも有名です。特に有名な絵は、2枚の屏風に描かれた『紅葉』という絵です。島根県を訪れる機会はもう二度とないかもしれないので、ここは行きたいと思い、旅程に入れました。※若かりし頃に島根を旅行したという母から、松江城と足立美術館は絶対に行くべき、と激推しされました。
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さて、我々は泊まったホテルを後にし、倉吉駅で朝ごはんを食べようとしました。しかし駅周辺には喫茶店などが一切ありませんでした。唯一セブンイレブンのみがあったため、そこでおにぎりを買いました。倉吉はまだ鳥取県なので、店内にはすなば珈琲とコラボしたパック豆乳が売っていました。それを買って、待合室で朝ごはんを食べながら電車を待ちます。
足立美術館へは、安来駅から出ている無料シャトルバスに乗って行けます。定員が28名なのですが、どうせ平日だし余裕で乗れるだろう、と高をくくっていました。しかしバス停では、前の電車で到着したただろう人たちがすでに行列をつくっていました。そのため、我々は乗ろうと思っていた時間のシャトルバスに、定員オーバーで乗れませんでした。足立美術館の人気おそるべし….。30分ほど後の次のバスに乗ることにします。
しばらくすると、我々は他にもおかしな点に気づきました。安来駅はとても小さな駅です。にもかかわらず、駅舎は新しく、パンフレット等が豊富で、観光誘致が盛んでした。鳥取県では、中心地であると思われる鳥取駅ですら何もなかったのに、この違いはなんでしょう….やはり鳥取県と島根県は税収の差が、ごほん。
安来駅には観光客用の案内がいろいろとあったため、眺めているうちにあっという間にシャトルバスの時間になりました。安来市はどじょう料理が有名だということが分かったため、どじょう料理を食べてみたいね、という話になります。
足立美術館の中に入ると、さっそく広大な枯山水の庭が目に飛び込んできました。枯山水は、玉砂利を水に見立てたお庭です。実際には水でないものを、水だと想像して観る力が問われるハイコンテクスト性が、とても日本らしいですよね。例えば、玉砂利の中にぽつぽつとある岩は、水に浮かぶ島を表現しており、そびえる灯篭は、岬にある灯台の代わりなのです。
遠くの山々が霧がかっていて幻想的です。山などの、庭以外の景色を庭園に取り入れることを「借景」と言います。「借りる」という表現が、余計な力をなるべく使わず、自然に沿って生活してきた日本人らしいと思います。西洋はどちらかというと、自然を力ずくで征服する思考で、それについては西洋における森の歴史にてお話しました。
もちろん、美術館は庭園だけではありません。美術館の一角に、絵本の挿絵などに使用された童画コーナーがあり、林義雄という人の絵がとても気に入りました。著作権の関係で、残念ならが記事には載せられませんが、とても温かみのある可愛らしい絵でした。ポストカードを何枚も買ってしまいました。
横山大観の絵は、美術館の一番の目玉なので、最後の展示ブースにありました。『紅葉』の屏風絵は圧巻でした。どうやら1年中展示されているわけではなく、尾形光琳の『燕子花図屏風』がカキツバタの時期(初夏)にしか展示されていないように、『紅葉』も秋にしか展示されていないようです。今回は10月の旅だったので、観られて幸運でした。
ミュージアムショップでは、ポストカード数枚と、林義雄の絵を印刷したエコバックと、横山大観の《紅葉》の色紙を買いました。色紙サイズ用の額を持っていなかったため、帰ってから、画材屋の世界堂で購入しました。
美術館を出たころには、13時くらいでした。近くにどじょう料理の定食屋があったため、そこでお昼ごはんにします。私はどじょうのかき揚げが入った蕎麦を、友人はうどんを注文しました。どじょうの味は、煮干しのような味でした。ちょっと苦くて、骨が多い感じです。栄養価がとても高く、健康によいみたいです。おいしかったです。
安来駅へ帰るシャトルバスが15時だったため、それまで周辺をぶらぶらします。朝は雨がぱらついていましたが、午後になるにつれて晴れてきました。
お米がいっぱい。友達と、「つまり日本酒がおいしいということだ」という結論に至ります。実際、島根県は日本酒の発祥の地なのです。お酒は神事に使うものだから、島根県(大国主神が祭られた出雲大社がある)が発祥というのは納得である一方、三重県(天照大御神が祭られた伊勢神宮がある)はどうなのかな?と思います。
玉造温泉
安来駅から玉造温泉駅へ移動した我々は、今夜の宿がある玉造温泉にやってきました。玉造温泉は「玉造」という名の通り、勾玉の産地で、弥生時代の遺跡が近くに残っています。また温泉自体の歴史も古く、733年編纂の『出雲風土記』に記録があります。
我々は今回の旅において、1つの宿だけとてもお金をかけよう、と決めていました(他は安宿)。そこで選んだのが、玉造温泉の「佳翠苑皆実」という宿でした。部屋に着いてびっくり、なんと部屋つきの温泉がありました。こんな贅沢な宿には初めて泊まりました。ひとしきり部屋で写真撮影をして盛り上がりました。
夕方に着いた我々は、温泉街も見て回りたかったので、暗くなりはじめた川沿いに沿って歩いて行きます。そこで初めて、「玉造」の由来が勾玉だと知り、時間さえあれば弥生時代の遺跡にも行ってみたかったなと思います。
三種の神器は鏡と剣と、最後の1つは勾玉なのか、と再認識したところで、勾玉屋さんがあったので入ってみます。可愛いなと思ったものに、因幡の白兎をモチーフにしたうさぎが、勾玉を持っている置物がありました。うさぎが持っている勾玉は三種類あり、①ローズクォーツ(恋愛運)、②赤めのう(家庭円満)、③緑めのう(健康長寿)でした。
「緑めのうのうさぎが減っているところからして、この温泉街に来る客層が分かる」という話を友達とします。我々が泊まる予定の旅館も、お爺ちゃんお婆ちゃんばかりでした。
「ローズクォーツは外来種だから勾玉にはふさわしくない。赤か緑にするべき」「そうだ、そうだ!(恋愛とか舐めてんのか)」ということになり、二人とも赤めのうのうさぎを買いました。家族が一番大切ですよ。
商品を入れてもらった袋には、「神在月」のスタンプが押されていました。10月は和暦で「神無月」ですが、これは島根の出雲大社に国中の神様が集まることで、神様が不在になる月だからです。逆に、島根には全国の神様が集まるため、「神在月」になります。島根県の特権すぎて感動します。
湧き出た温泉の水をボトルに入れて持ち帰れる場所があったので(化粧水として使える)、友達はボトルに入れていました。鯉に餌をあげられるスポットでは、私が餌をあげてみました。鯉ではなく2羽の鴨が明かに待ち構えていたので、できるだけ鴨に横取りされないよう、餌を投げてみました。そうこうしているうちに、あたりが暗くなってきました。玉作湯神社で参拝したあと、道を引き返します。
夕食の時間になったため、旅館の食堂へ行きます。友達が地元の日本酒を注文したので、私もおちょこに一杯だけいただきました。私は炭酸があまり好きではないので、日本酒も含めてワインとか梅酒とかウィスキーとか、原酒で飲めるお酒が好きです。ただしアルコール耐性がそれほどないので、少ししか飲めません。今回は友達がお酒に激強なので、分けてもらうことで、ちょっとだけでも味が楽しめてありがたかったです。料理もおいしくて大満足でした。
その後、旅館の最上階にある大浴場へ行きました。大浴場は2種類あるらしく、夜と朝で違う浴場に行くとして、残念ながら部屋つきの温泉は入れないね、ということになりました。明日も行く予定のところがたくさんあるので、旅館でそれほどのんびりしている暇はありません。もう一泊くらい泊まりたいなあ、と言いながら眠りにつきました。
おわりに
今回は足立美術館と玉造温泉へ行った話をしました。
ここの旅館に泊まったときだったか忘れましたが、友達に「そういえば昨日、顔に枕のせたまま寝てたよ。苦しくないのかな….?と思ったんだけど」と言われました。私は高い枕が嫌いで、よそで泊まるときはいつも枕なしで眠ることができます。ただ、ホットアイマスク的な要領で、目の上に何か乗っていると安心するので、枕を顔に乗せてみて、そのまま眠っていたようです。苦しくなかったです。大丈夫でした。
次回は松江へ行った話をします。