エッセイ

文章力と思考力を高める!「抜き出しノート」作成のススメ

はじめに

先日、本棚から古い「抜き出しノート」を発見しました。抜き出しノートとは、自分が本を読んで気になった文章を、そのまま書き写したノートのことです。名称は、他のノートと差別化するために、私が適当につけました。本記事でも「抜き出しノート」という呼称で統一します。

このノートの一部を撮影した写真をTwitterで投稿したところ、たくさんの「いいね」「リポスト」をいただき、皆さんが「抜き出しノート」について興味を持っていることが分かりました。そこで今回は、皆さんが真似できるように、「抜き出しノート」について詳しく解説したいと思います。

該当するTwitterの投稿は以下です▼ (これから詳しく解説するので、投稿内容は読まないで問題ありません)

【ひとこと】
こんなに雑な字で書かれたノートを、皆さん拡大して解読してくださったんですか? 本当に恐縮です、ありがとうございます。

抜き出しノートの概要

私の抜き出しノートは、以下の2パートに分かれています。

  1. 気になった文章をそのまま書き写した箇所
  2. 書き写した文章に対して、自分の思考を記載した箇所

紙面をパッと見たときに、どちらのパートか区別できるよう、文字の色を分けています。具体的には、文章を書き写す際には鉛筆を使い、自分の思考を書く際にはオレンジのペンを使っています。図解にすると、以下の通りです。

抜き出しノートの図解。

私の場合、抜き出しノートに書き写す本のほとんどが学術書です。理由は、学術書を読んでいる際に、知らなかった発見をしたり、考えさせられる発見をしたりすることが多いからです。頻度としては少ないですが、小説やエッセイの文章を書き写すこともあります。小説やエッセイの場合には、学術書と異なり、美しい言い回しの文章も書き留めたくなります。

使用しているノートは無印良品で5冊セットで売っている、A4サイズの素朴なノートです。値段が他のノートと比べて安価なので使いはじめましたが、罫線の色がうすいため、罫線を無視してコメントを書くときに邪魔にならない点で気にいっています。

抜き出しノートのメリット

抜き出しノートを始めると、どんなメリットがあるのでしょうか。自分の場合を振り返って、考えてみました。ノートを作成するメリットとして、早く効果が表れる順に、以下4つが挙げられます。

メリット① 文章力の向上

抜き出しノートを作成するメリットとして第一に、文章の向上が挙げられます。

人が何らかのスキルを身につけたい、センスを磨きたいと思った場合、最もよい方法は、「お手本を真似ること」です。例えば、あなたが中世ヨーロッパにおける、パン屋の工房に弟子入りしたとしましょう。そこでスキル向上のためにやるべきことは、親方や兄弟子の動作を真似て、パンをつくることです。

この法則は現代社会においても同じです。つまり、新人社員が仕事を覚えるためにまず行うことは、上司や先輩の仕事の真似をすることです。例えば、顧客の心に響く(「ぜひ御社との契約を結ばせてください!」と言ってもらえるような)、センスのよい提案書をつくるためには、提案書の出来栄えにおいて、この人の横に並ぶ者はいない! という先輩の提案書を真似して、自分のセンスを磨くのです。

この法則は、文章力についても当てはまります。すなわち、文章力を高めたいのなら、自分の文章よりも優れていると思う文章を真似ることが、上達への近道です。最も効果的な「真似」が、文章をそのまま書き写すことです。たくさんのお手本文章を書き写していると、自然と「文法力」「語彙力」「センスのよい言い回し」等が身についてきます。

An illumination depicting a scriptorium in action, from a manuscript in the Biblioteca de San Lorenzo de El Escorial, Madrid, Spain, c. 14th century AD
An illumination depicting a scriptorium in action, from a manuscript in the Biblioteca de San Lorenzo de El Escorial, Madrid, Spain, c. 14th century AD

そもそも、印刷技術がなかった時代には、人は手書きで書き写すことで本を増やしていました。例えば、『源氏物語』を書いた紫式部が、センスのよい文章を書けるのは、中国の漢詩も含めて、幼い頃からたくさんの物語を書き写してきたからです。明治の小説家・夏目漱石も、英語力を高めるために(彼は英語の先生でした)、たくさんの英文を書き写したといわれます。

よって、抜き出しノートは文章力の向上に役立つことが分かります。書き写したあとに、自分の考えとして、何を書けばよいか分からない、という方は、無理して何かを書く必要はありません。なぜなら、文章を書き写すだけでも、十分すぎる価値があるからです。加えて、書き写すことを継続していると、力が身につき、そのうち自然に自分の意見を書けるようになってきます。

【ひとこと】
抜き出しノートの作成は大学3年生の頃からはじめました。就活の時期になり、書類(エントリーシート)の添削をしてもらうために、大学の就活支援課に行くと、「こんなによい文章を書く学生はなかなかいない」と驚かれました。

私は、宿題の読書感想文が苦手なタイプで、高校生の頃まで、ほとんど本も読みませんでした。だから、文章を書くことが得意な自覚はなく、「そんなまさか」と思いました。

「手直しはほとんどいらないよ」というアドバイスを基に、半信半疑で書類を提出しました。すると、提出したすべての企業で、書類選考を通過しました。今思うと、抜き出しノートを作成したことが、文章力のあがった要因の一つだと思います。

メリット② 思考力の向上

抜き出しノートを作成するメリットとして第二に、思考力の向上が挙げられます。

先ほど、書き写す行為によって、文章力の向上がはかれることを説明しました。同じように、自分の思考を書く行為にも、素晴らしい効果があります。それは、思考力が向上するという効果です。

「思考力」を言い換えると、自分の思考を言葉にして、相手(や自分自身)に伝える力です。この鍛錬を重ねると、やがて人との議論の場でも、自分の意見をスムーズに言えるようになります。

私の場合には、この鍛錬を積んだおかげで、歴史文化ブログ(中世ヨーロッパの道)の記事が書けるようになりました。じつは、自分の抜き出しノートに記載した思考の多くが、何らかの記事を書くためのネタになっています。つまり私にとって、抜き出しノートは「ネタ帳」の機能ももっています。

参考までに、以下に例を挙げていきたいと思います。

抜き出しノートの例1。十字軍遠征に関する学術書を読んで、宗教の機能について考えている。

まずは例1です。画像では読みにくいと思うので、右ページに記載された、オレンジ文字(自分の思考)の一部分を、以下に記載します。

教会が平和を望むのは、神が平和を望むからであり、仮に神が望まないのなら、キリスト教は平和と結びつかなかったのだろうか。

そもそも、宗教の根底には人間の道徳観があり、それが平和への義務づけをしたのか。宗教が先か道徳が先か。平和を望まない宗教などあるのだろうか。

宗教は昔の人びとが自然を理解しようとした結果の産物であり、しかしそれ以上の複数の意味をもっていた。それは法がなかった時代の法の役割をもった。つまり人間社会に秩序をつくるためのツールとして機能していた。

このメモを着想に、さらに知識を増やして書いた記事が、神話と宗教の機能を考えるです。本から文章を書き写したのが2017年で、記事になったのが2020年なので、じつに3年間ほど、ネタを温めていたことになります。

抜き出しノートの例2。西洋の魔女に関する学術書を読んで、魔女狩りについて考えている。

つづいて例2です。右ページに記載された、オレンジ文字(自分の思考)の一部分を、以下に記載します。

魔女は「(ケルト文化由来の)魔法使いの女」ではなく、悪魔のしもべの、キリスト教と敵対する悪女のことである。それはつくりあげられた人工の産物である。

本来、自然にしていれば生まれなかったはずのものが、メディアの力によってつくられた。中世的ではなく、極めて近代的。

このメモを着想に書いた記事が、西洋史における「魔女」とは何かです。

このように、抜き出しノートに自分の思考を書く鍛錬を重ねると、自分の意見を分かりやすく言えるようになるばかりか、新たなアイディアがたくさん浮かんできます。

メリット③ 視野の拡大

抜き出しノートを作成するメリットとして第三に、視野の拡大が挙げられます。

そもそも、多種多様な本を読む行為は、さまざまな専門分野のプロの話を聞く行為と同じで、自分の視野を広げる効果があります。読むだけでも十分な効果がありますが、それを抜き出しノートに書くことで、記憶の定着をはかることができます。

何かのスキルを高めたいのなら、インプットしたあとにアウトプットすることが、最も効果的と言われます。例えば、レシピ本を見ずにハンバーグを作れるようになりたいと思ったら、レシピを読んだあとに(インプット)、何度もハンバーグを作って(アウトプット)、必要な材料や料理手順を記憶しますね。

それと同じ法則が、視野を広げるためにも当てはまります。文章を読むだけでも意味はありますが(インプット)、自分で書く行為をして(アウトプット)、さらなる定着をはかります。

【ひとこと】
最近、レシピを見ずにハンバーグを作れるようになりました。

メリット④ アイディアの宝庫になる

抜き出しノートを作成するメリットとして最後に、ノートがアイディアの宝庫になることが挙げられます。

私はブログ記事を書くとき、1冊の本から着想を得ることはまれです。1冊の本だけを読んで思いつく考えなど、程度が知れているし、記事にしようとすると、どうしてもその著者の意見を紹介する形になってしまいます。すると、その著者の本を読めばいいだけの話になり、私の記事の存在意義はなくなってしまいます(そもそもこのような記事は、著作権の侵害となるのでいけません)。

ネタを温めるときには、たいてい2冊以上の本、多いときには5冊くらいの本を頭の中に置いています。頭の中では例えば、「本Aと本Bと本Cのこの部分を組み合わせれば、○○というテーマの記事を書けるな」などということを考えています。このときに、考えを整理するために役立つのが、抜き出しノートです。

抜き出しノートの真の価値は、数多くの本から抜き出した、えりすぐりの文章がぎゅっと詰まっていることです。そのため、私は本をたくさん用意することなく、1冊のノートのページをめくるだけで、複数の本の内容を見返し、参考にすることができます。

ノートを眺めているときには、本ごとに分けて記載した文章群が、独立性をなくし、ネットワークのように互いに結びついています。すると結びついた先で、思いもよらないアイディアが生まれます。このような、複数の本の内容を結びつけ、新しいアイディアを生む助けをしてくれる点で、抜き出しノートはアイディアの宝庫となります。

抜き出しノートの真価は、複数の本を結びつけ、新しいアイディアを生む助けをしてくれること。

抜き出しノート作成のコツ

前章では、抜き出しノートを作成するメリットを4つ紹介しました。メリットは以下4つでした。

  1. 文章力の向上
  2. 思考力の向上
  3. 視野の拡大
  4. アイディアの宝庫になる

抜き出しノートを作りたい! という気持ちが高まってきましたでしょうか。ここからは、実際に抜き出しノート作る際の、コツを4つ紹介します。

コツ① 文章を写すのは読み終えてから

抜き出しノートに文章を書き写すのは、本を読み終えてからです。本を読んでいるときには、余計なことを考えずに、著者の言葉のみに集中して耳を傾けます。中途半端な箇所で読書を中断してしまうと、何の話をされていたのか分からなくなり、章のはじめから読みなおさなければならない……なんてことになりかねません(とくに難解な学術書の場合)。

このとき、ノートに書き留めておきたい文章を見つけた場合には、付箋をはるか、ページ番号をスマホのメモ帳などに控えておきます。付箋をはるのは、購入済みの本に対してのみにしましょう。なぜなら、付箋を剥がす際に、紙が痛んでしまうからです(古い本だと表面が剥げてしまうし、新しい本でも少なからず繊維が傷む)。つまり、図書館等で借りた、公共の本に対して付箋をはってはいけません。

コツ② 本の情報は必ず記載する

抜き出しノートに本文を書き写す前に、本の情報を記載しましょう。本の情報とは、題名、著者名(翻訳本であれば翻訳者名も)、出版社、出版年などです。本の情報は書き忘れやすいので、本文を書き写す前に、必ず書く習慣をつけていると安心です。きれいに書こうとしなくていいです、自分が読めればいいです、どんなに汚い文字でも、それがあるだけで、あとから絶対に自分に感謝することになります。

理由として第一に、数年後に読みなおしたいと思ったときに、まったく同じ文章が書かれた本にアクセスできるようにするためです。第二に、抜き出しノートに書き写した文章を、どこかに引用する機会があるかもしれないからです。引用する際には、読み手がその本にアクセスできるよう、出典を明記する必要があります。そのときに情報が不足していた場合、再確認する手間がかかってしまいます。

もっと怖いことを言いましょうか。自分の書き写した本が、数十年後に絶版になった場合、かつ自分がその本を持っていなかった場合、二度とその本にアクセスできなくなります。そんなとき、本の情報が書かれた抜き出しノートは必ずや、あなたの財産になります。だから必ず本の情報を記載しましょう。

本の情報として何を書くべきか分からない場合には、各大学がネットで公開している、参考文献の書き方を参考にするとよいでしょう(どこの大学のページでも構わないが、有名な大学だとソースとしてより安心)。大学のサイトには、英語の本の場合、雑誌の場合など、さまざまなケースが書かれています。

【ひとこと】
本の情報と併せて、本を書き写した日付も書きましょう(年を書くのを忘れがちなので気を付けて!)。そうしておくと、後から見返したときに、自分の成長が分かって、達成感があります。5年前はこんな稚拙な思考をしていたんだ、とか。

また、コメントを追加したときに、その横にも日付を書いておくと、思考の変化が分かっておすすめです。

コツ③ 思考に専念するために、まずはすべて書き写す

抜き出しノートを作成する際には、書き写す作業と、思考する作業を交互に行ってはいけません。なぜなら、それぞれの作業で異なる頭の使い方をするからです。思考というのは、思考する時間をかければかけるほど深くなっていきます。途中で思考を中断しては、効果が薄れてもったいないです。

そのため、後で思考に専念するために、その本で気になった文章を、まずはすべてノートに書き写してしまいましょう。このとき、自分の思考を書く分のスペースを、どれだけ開けるか迷うと思います。慣れないうちには、とりあえず抜き出した文章と同程度、あるいは倍くらいのスペースを開けてみるとよいでしょう。慣れてくると、書き写した文章によって、「この文章に対してはあまりコメントすることがない」「この文章に対しては半ページくらい意見を書きたい」などと判別できるようになってきます。

忘れてはならないのは、自分の考えを数年後に書き足すこともある、ということです。抜き出しノートを続けていると、考える力が身につくため、数年後に成長してから見返したとき、また異なった視点でその文章を読むことができます。また、他の本で得た知識と関連づけて、新たな着想を得ることもあります。そのため、後から書き足すことができるように、あらかじめ余白を多めに設けておくとよいでしょう。

書き写す作業をしているときには、単調でつまらないと思うので、音楽を聴いたりして楽しく乗り切ります。とにかく、思考は後でたくさんするので、この時点では無心でひたすら書き写します。

書き写す際には、けっこう写しまちがえるので、鉛筆(またはシャーペン)で書くことをおすすめします。鉛筆で書けば「いつでも直せるし、間違えてもいいや」と思って、気負わず書けますしね。

コツ④ 心に浮かんだ思考を自由に書く

書き写す作業を終えたら、いよいよ自分の思考を書く段階になります。このときのポイントは、「きれいに書こうとしない」です。ノートの罫線に従わなくても、文字が斜めになってもかまいません。きれいに書こうとすると、せっかく浮かんだ思考が消えてしまうかもしれないので、心の中から言葉をそのまますくって、自由な文章で書いてください。

抜き出しノートは自分だけのもので、誰に見せるものでもありません。だから、書き写した文章に矢印をつけたり、アンダーラインを引いたり、気になる単語に丸をつけたりしながら、本当に好きな言い回しで自由に書いてください(あとから自分が見返して「何を言っているか分からない」となっては本末転倒なので、解読可能な範囲で!)。

このときの筆記具は、転写した文章と異なる色にすれば何でもよいです。私はゼブラのサラサクリップ0.5の書き心地が好きなので、このペンのオレンジを使っています。

さて、これまで、抜き出しノートを作成する際のコツを4つ紹介してきました。その4つとは以下の通りです。

  1. 文章を写すのは読み終えてから
  2. 本の情報は必ず記載する
  3. 思考に専念するために、まずはすべて書き写す
  4. 心に浮かんだ思考を自由に書く

これらのコツは、私がノートを作成しながら、より効果的な方法を模索して見つけたものです。しかし、あくまで「私にとってはこのやり方が一番」の方法なので、この方法で行わなくても全く問題ありません。実際に自分で作りはじめると、続けるうちに自分に合ったやり方が分かってくるはずです。大事なのは、自分が楽しく続けられることなので、ぜひ自分に合ったやり方を見つけてください。

抜き出しノート誕生の経緯

抜き出しノートの作成方法については、以上で終わりです。ここからは、抜き出しノートの誕生経緯について紹介します。気になる方はお読みください。

抜き出しノートを作成する目的が、私の場合には3回変わりました。

段階1:本を買うお金がもったいなかったから

最初は、本を買うお金がもったいなかったので、忘れたくない文章を書き写すために、始めました。始めたのは大学3年生の頃でした。西洋文学の講義にて、J.R.R.トールキンの『妖精物語について』というエッセイがあることを知り、ちょうど『指輪物語』を読んでトールキンの大ファンになっていたので、その本を大学図書館で借りて読みはじめました。

本を読んでいるうちに、書き留めておきたい文章がたくさんでてきました。図書館で借りればいつでも読み返せるけれど、手元に置いていつでも読み返せるようにしたい、と思って始めたのが抜き出しノートです。この段階から、転写するだけでなく、自分の感想をちょこちょこノートの余白にメモしていました。

段階2:卒論のテーマを絞るために使おう

『妖精物語について』の転写をはじめてから、他の本を読むときも、「書き留めたい文章があるか?」という視点で接するようになりました。他の本についても転写を続けていると、だんだん、「この行為は卒論のテーマを絞るために使えるのではないか」と思うようになりました。私は歴史学の研究が大好きだったので、興味のあるテーマがたくさんあり、1つに絞ることが難しかったのです。

ノートを卒論のために使おう、と決めてからは、より自分の思考を詳しく書くようになりました。その時のノートを見返すと、「○○というテーマはどうだろう?」などという、卒論のテーマに悩んでいるメモを見ることができます。

段階3:そのときの思考を忘れたくない

卒論のテーマが決まり、卒論を書くことに集中するようになってからは、しばらく抜き出しノートを中断していました。しかし、卒論が落ち着いた頃から、ノートの作成を再開しました。この頃にはだいぶ本好きになっていたので(私は大学生になってから本を読みはじめた人間です)、アルバイト収入を本の購入費に充てることに、抵抗がなくなっていました。

そのため、自分の手元にある本は、いつでも読み返せるから転写する必要もないかな、と思ったりしました。しかし、そのときの思考を忘れたくないという思いで、ノート作成を続けました。結果として、ブログ記事作成時のネタになることも分かり、継続していてよかったと思っています。

想定される質問(FAQ)

ここからは、想定される質問とのその答えを3つ書きます。

Q. 電子ノートでもよいですか

よいと思います。Twitterの引用でも「Notionでやろうかな」という人が何人かいらっしゃいました(Notionとはメモアプリのこと)。

電子ノートで作成するメリットとして、検索機能を使えることが挙げられます。紙ノートだとどこに何を書いたか、自力で探さなければなりません。しかも、たしかにどこかで見た文章なのに、どこを探しても見つからない、などという時がざらにあります。私も検索機能が使えるメリットに惹かれて、電子ノートを使ったことがあります。

ただし、デメリットもあります。電子ノートだと、読みにくくて見返すことがあまりないのです。なぜ読みにくいんでしょうね。おそらく、遺伝子レベルで考えると、PCが人間にとってぽっと出の技術だからではないでしょうか。それに対して、紙媒体は何千年も前からあります。私は紙ノートのほうが好きです。

Q. 書き写すのが大変で時間がとれないのですが

はい。当然の質問ですね。私もじつは、近年は時間がとれなくて、抜き出しノートを作成できていません。時間がない方は、抜き出しノートより効果は薄れますが、本を読みながら、紙面の余白に自分の思考をメモすることをオススメします。このようにすれば、文章を転写する手順を飛ばすことができるので、その分の時間削減になります。

※もちろん、自分の本にしかこの方法はやってはいけません。

ウンベルト・エーコ『世界文明講義』の余白に私が記載したメモ。

私も最近はこの方法をメインにしています。本を読みながら余白にメモをする、注釈を書く、という行為は、西洋においては中世期頃から存在します。余白のメモに対する呼称もあり、マルジナリア(Marginalia)と呼ばれます。

おそらく読書家の人にとって、本を読みながら線を引いたりメモをしたりすることは、当たり前の行為でしょう。ところが、そうでない人にとっては抵抗感があるかもしれません。

いいですか、本はメモをしてこそ、あなたの財産になるのです。何も書かれていない、まっさらな本は、新品の本と取り替え可能な本ということになり、「あなたの」本ではありません。

もちろん、一度手書きでメモを残せば、その本を他者にあげたり、売ったりすることができなくなります(他者にとっての価値はゼロになる)。しかし、あなたにとってその本の価値は、メモをすればするほど高まります。だから遠慮なく書きまくってください。

私の場合、本の余白にメモを残す場合には、メモしたことの目印として、付箋をはっています。こうしておくと、時が流れても、その本にメモを残したことが分かり、後から見返しやすくなります。付箋はできれば100年くらい朽ちないでほしいので、ポストイットのフィルム付箋を使っています。

【ひとこと】
メモを残すまでの価値を見出せない本は、きれいな状態のままメ○カリ等で売ってしまいましょう。その本はハズレです。

Q. 研究者になろうとは思わなかったのですか

書こうか書くまいか迷いましたが、気になる人もいるかもしれないので、いちおう書きます。

人文学系の学問ならなんでも好きだったので、研究者になりたいと思ったこともあります。しかし主に以下2点の理由で、その道に進むのはやめました。

  1. 学部卒業時点ですでに借金が数百万円……
  2. アカデミック界の不穏な空気を感じ取る

まず最初の理由についてです。私は私立大学4年間の学費をすべて、日本学生支援機構から借りた奨学金で払いました。この機構から借りた奨学金は、利息をつけて、40歳になるまでの期間に、全額返済する必要があります。しかし、研究者を目指すとなると、経済的にかなり不安定な状態が続くため、奨学金を返済するのは無理だろうと思いました。加えて、研究者を目指すとなると、修士課程、博士課程の学費を払わなければならないので、さらに借金をしなければならなくなります。

二番目の理由についてです。私は在学中に少なからず、アカデミック界の不穏な空気を感じ取り、自分がこの世界でやっていくのは難しいだとう、と思いました。不穏な空気とは、具体的には、①学歴至上主義、②プライドの高い人が多く、応対に気を遣わなければならない場面が多い、③女性研究者に対する蔑視、などです。

じつを言うと、社会人になってからも、研究者の道に進みたいという気持ちが収まらない場合には、仕事を辞めて大学院に進学しようかな、と思っていました。しかし、結局そういう気持ちはなくなりました。私は本当に興味が散漫で(それに飽き性で)、いろんなことをちょっとずつ知ることが楽しい性分です。そのため、一つのテーマを生涯研究し続けることは苦行だろう、と思いました。

今はこのように、ブログであれこれ書くことが楽しく、学術書をふだん読まない人にも、歴史学を含めた人文学の楽しさを知ってもらいたい、と思っています。

おわりに

今回は、私が長年つづけている、抜き出しノートについて、メリットや作成方法などを紹介しました。

「ノートの写真を見ればどんなノートか分かるし、あまり書くことはないな」と思っていましたが、いざ記事を書きはじめると、思ったより大ボリュームになりました。某ビジネス系出版社から出ている、ハウツー本なみの内容があるかもしれません(書籍化のご依頼は、お問い合わせフォームよりどうぞ♪)。

みなさんもぜひ、自分なりの抜き出しノートをつくって、知的好奇心に満ちた、充実した生活を送ってくださいね。本記事について、面白かった、ためになった場合には、拡散いただけると、大変励みになります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

◎Twitterで更新情報をお知らせします。よろしければフォローお願いします。

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