旅にでたくなる小説/エッセイ -7月読書会

目次

はじめに

7/8(土)に3回目の読書会を開催しました。その記録を本記事に記載します。

イメージ写真はニュージーランドで撮影した、羊が放牧された丘陵の風景です♪

7月読書会の内容

今回のテーマは、旅にでたくなる小説/エッセイです。夏という季節は昔から、凍死の危険がなく、道すがらに採集できる食物が豊かなことから、旅にもってこいの季節でした(温暖化が進んだ現代日本は暑すぎて危険ですが…)。

また、現代人にとっても、夏は学生にせよ社会人にせよ、夏休みのある人が多いため、遠くに出かけるにはぴったりな季節です。そこで、旅へのテンションを高めるような、小説やエッセイを紹介し合いたいと思い、このテーマにしました。

今回は2名の方に参加いただきました。時間に余裕があったので、1人につき2冊紹介しました。

紹介された本

J.R.R.トールキン『ホビットの冒険』

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ファンタジー文学の祖・トールキンが自身の子供たちのために創作した冒険物語。おそらく世界で最も権威あるファンタジー物語、『指輪物語』が生まれる前に書かれた、『指輪物語』の前日譚でもあります。

主人公のビルボは、居心地がよく平和なホビット庄に暮らしています。ある日のこと、魔法使いのガンダルフが現れ、ドワーフたちの冒険に加わり、竜に奪われた彼らの宝を取り戻すことに協力してくれ、と頼まれます。ビルボは「魔法使いと関わるのも、ドワーフたちと関わるのもまっぴらだ。今の生活に満足しているんだ」と思います。そこで彼らを邪険に扱いますが、結局ドワーフたちと冒険に出ることになりました。

この本を紹介した方は、この物語において、旅に出るということは、「詩人になること」だと言います。ここでいう詩人とは、一見なんの変哲もない日常生活のなかに、驚きを発見する人のことを指します。長い冒険を終えて、自分の家に帰ってきたビルボは、自分の家のようすを、以下の通り描写しました。

ビルボはすっかり満足していました。だんろにかかった湯わかしのわく音は、あの思いがけない集まりの日よりむかしには、感じなかったほど今は美しい音色にきこえました。

J.R.R.トールキン『ホビットの冒険<下>』、岩波少年文庫、2002年、263頁。

紹介者さんは、トールキンが中つ国という異世界を創造してまで伝えたかったのは、我々が気づかないだけで、日常のなかにすでに美しいものがあるということだろう、と考えました。人は日常から離れて旅に出て、多角的視点を身につけることによってはじめて、帰ってきたときに以前までは気づかなかった美を発見するのです。

ここまでの話を聞いて、以下のような話が出ました。

  • 例えば、西洋を旅すると、聖堂からは自然が排除されているのに気づく。日本に戻ると、寺院は樹や池などの自然も含めて「寺院」であり、自然と調和して生きる日本文化のよさを感じる。
  • 日本に帰化した小泉八雲(出生名:パトリック・ラフカディオ・ハーン)の本を読むと、日本のよさに気づく。小泉から見ると、日本は物作りが得意な小人が暮らす、ホビット庄のような国だった。

~sousouのコメント~

『ホビットの冒険』は既読ですが、紹介者さんの話を聞いて、児童文学に分類されているとはいえ(されているからこそ?)奥が深い物語なのだなと感じました。また読みなおしたくなりました!

コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』

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コーマック・マッカーシーは、現代アメリカ文学を代表する作家です。先月6/13に、89歳で死去したことで話題になりました。

すべての美しい馬』は、三部作からなり、第一部では、アメリカで牧場を失った少年が、新しい土地を求めてメキシコへ渡る物語となっています。メキシコへ旅する描写が秀逸で、旅に出たくなる物語である、と紹介者さんは言います。文体は独特で、会話文に「」を使用しないそうです。

コーマック・マッカーシーはだいたい大江健三郎と同年代だ、という話になり、大江健三郎に影響を与えた人として、人類学者の山口昌男の話になりました。そこで、絶版になっていた『本の神話学』が8月に新版として再販されることを知り、ぜひとも入手しなければ、となりました。

~sousouのコメント~

コーマック・マッカーシーの小説は読んだことがないため、この機会にぜひ読んでみたいです。私は西洋大陸に興味が寄っているため、アメリカが舞台の物語はあまり読んだことがありません。メキシコが舞台の物語に至っては、全く読んだことがないので、とても気になります。

山口昌男については、『道化の民俗学』を呼んだことがあります。非常に興味深く勉強になったため、他の著作も読んでいきたいです。個人的に森の神話のについて興味があるので、大江健三郎については、『同時代ゲーム』と『M/Tと森のフシギの物語』が気になりました。

※『道化の民俗学』で得た知識が役立った記事に、ロード・ダンセイニ『エルフランドの王女』の考察があります。

マーク・ヴァンホーナッカー『グッド・フライト、グッド・ナイト』

こちらは私が紹介したエッセイです。イギリス生まれの著者は、小さい頃から飛行機に憧れていましたが、大学院生の頃までは、アフリカ史の研究者になろうと思っていました。彼の母がイサク・ディネセンの『アフリカの日々』を好きなことが一つのきっかけとなり、アフリカに興味を持ったためです。しかし、研究のためにケニアへ向かう飛行機に乗ったとき、自分がケニアへ行くことよりも、飛行機に乗ることに対しわくわくしていることに気づきます。

そこで著者は、腹をくくって飛行機のパイロットになることを決意しました。奨学金の返済のため経営コンサルタントとしての勤務を経て、29歳のときにブリティッシュ・エアウェイのパイロットになりました。

飛行機に乗ることは、船や電車に乗るのと同じで、旅に出ることであり、著者もそう認識しています。そして、空の上から遠ざかっていく故郷を眺めていると、故郷への哀愁がつのると言います。読書家でもある著者は、様々な文学作品を引き合いに出しながら、飛行機での旅について語ります。

母に薦められて読んだ『スチュアート・リトル』や『ホビットの冒険』は、幼い私の冒険心をくすぐり、この世には、高いところや遠いところに行かないと見えないものがあるということを教えてくれた。人は飛ぶことで故郷を離れるが、最終的には故郷こそが人生の宝であり、目的地だと悟るのである。

マーク・ヴァンホーナッカー『グッド・フライト、グッド・ナイト』早川書房、2021年、18頁。

この本はサン=テグジュペリの『夜間飛行』と『人間の土地』の延長線上にある、空を飛ぶ旅についてのエッセイだと感じます。高高度から眺める世界は、日常からかけ離れており、私たちは著者の文章からその景色のイメージを膨らませて、体感することができます。

※『夜間飛行』と『人間の土地』の魅力については、『星の王子さま』だけではないサン=テグジュペリを参照。

ボンゼルス『みつばちマーヤ』

こちらは童話となります。主人公のマーヤはみつばちの女の子で、働きバチとして巣に貢献することが嫌になって、外の世界へ旅立ちます。彼女は人間の生き方に憧れていて、外界で様々な経験をします。

精神的に成長したマーヤは最終的に、スズメバチに襲われた自身の巣を助けるに、巣に戻ります。紹介者さんによると、この物語からは、日常から一歩外へ踏み出す勇気が、自分を成長させてくれる、というメッセージが読み取れるそうです。水星の魔女の「進めば2つ」のように(またガンダムの話題になりました)。

紹介者さんは、人生の転換期にこの物語を読んで救われた、と言います。

ロバート・ムーア『トレイルズ』

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こちらは私が2冊目に紹介したエッセイです。著者はアメリカの、アパラチア山脈に沿って続くアパラチアン・トレイルを歩きながら考えていました。道はどうやってできたのか? 道とはなんだろう?

道とは、意味もなくそこに存在するものではありません。道は町だったり、誰かの家だったり、教会だったり、必ずどこかの場所につながっています。そこに道が存在するということは、道を使う誰かが存在するということです。言い換えると、必要な道は整備され、不要な道は廃れます。道は市場へ買い物にいくための、人に会いに行くための、祈りに行くための、旅に出るための道なのです。

そのような、道に対する根源的な問いかけをし、考察していくのがこちらのエッセイとなります。

※私は道がもたらしてくれるロマンが大好きで、過去に西洋における道の文化史という記事を書いています。

ペール・アンデション『旅の効用』

こちらはジャーナリストの著者が、「⼈が旅に出る理由」を考察したエッセイです。紹介者さんは未読なものの、とても気になるということで挙げてくださいました。紹介文を見ただけで面白そうですし、試し読みで目次を見たところ、章の言葉選びにもセンスを感じ、ますます読みたくなりました。

おわりに

今回は「旅にでたくなる小説/エッセイ」を紹介する読書会の記録を書きました。

私は冒険物語が大好きですし、もちろん実際に旅に出るのも好きです。しかし近年は「趣味は旅行です」と言えるほど旅好きではなくなってきました。旅に出るには、宿を取ったり移動手段を考えたりと準備が大変ですし、いざ旅立つと毎日移動するので疲れますし、家に帰りたい…というホームシックに襲われたりします。歳をとったということかな、とも思いますが、コロナ禍になって一時期遠出を控えていたことも関係していると思います。

遠出を控えるようになってから、わざわざ旅に出て新しい発見を求めなくても、自分のすぐ近くに、今まで見落としていた発見や喜びがたくさん転がっていることに気づきました。『ホビットの冒険』でたとえるなら、旅にでなくても日常のなかの美しいものを発見できるようになった、ということかもしれません。例えば、傷のないつやつやどんぐりを拾ったり、色鮮やかな紅葉を拾ったり、花を摘んだりするだけで満足できるのです。あれ? やっぱり老人くさい。

さあ、皆さんも本記事で紹介した本を読んで、夏の旅行への気分を高めてください。私も夏休みは遠出する予定です♪

次回8月の読書会では、私の三大推し作家の一人、アントニオ・タブッキの『インド夜想曲』をテーマに議論します。

以上です。またよろしくお願いいたします。

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