クリスマスらしいことをしたいと思いながら、気づけば何ひとつできないまま季節が過ぎてしまう——そんな年もあるかもしれません。しかし数分だけ本を開けば、物語が季節を知らせてくれます。
今日は、そんな冬のための海外古典文学を集めました。すべて文庫で読めます。
『賢者の贈り物』 – O.ヘンリー

まずは、気軽に読める短編を2冊紹介します。一冊目は、O.ヘンリーによる『賢者の贈り物』です。
大切な人に贈り物をしたいと思ったとき、贈り物を用意するだけの、十分なお金がなかったらどうしますか? 『賢者の贈り物』ではそんな繊細な気持ちの葛藤が、優しく、大切に描かれています。
O.ヘンリー(1860-1910年)は、アメリカ出身の短編小説の名手です。題名『賢者の贈り物 The Gift of the Magi』の「賢者 Magi」とは、キリストが誕生した際に、東方から贈り物を携えてやってきた三賢者のことです。
つまり「賢者の贈り物」はクリスマスプレゼントを意味しています。しかしこの原題”The Gift of the Magi“は”The Christmas Present“とするよりも、いっそう神聖性を感じさせる題名になっています。というのも、最終的に登場人物たちが用意した贈り物は、<賢者の贈り物>に匹敵するほど、尊いものだったからです。
この作品は、大切な人のためならどんな犠牲もいとわない、という何にも代えがたい人間愛が描かれた物語です。家族や友人、恋人などの身近な人対して、優しい気持ちになりたい方におすすめです。
東方の三賢者とクリスマスプレゼントの起源については、以下記事で紹介しています。

『クリスマスの日の思い出』 – トルーマン・カポーティ

気軽に読める短編二冊目は、トルーマン・カポーティによる『クリスマスの日の思い出』です。
人生で最も楽しかったクリスマスの記憶として、子供の頃のクリスマスを挙げる人も多いのではないでしょうか。『クリスマスの日の思い出』は、主人公が子供のようなお婆さん(かつ親友)と一緒に、ご馳走の買い出しをしたり、ツリーの飾りつけをしたりする、楽しくも切ないクリスマスの思い出を振り返る物語です。
トルーマン・カポーティ(1924-1984年)はアメリカ出身の小説家です。最もよく知られている作品は、オードリー・ヘップバーン主演で映画化もされた『ティファニーで朝食を』です。
『クリスマスの日の思い出』は、物質的な豊かさがなくても、祭日の素晴らしい過ごし方はあるし、大切な思い出はたくさんつくれるのだ、ということを教えてくれる物語です。子供の頃のクリスマスのわくわくを、思い出したい方におすすめです。
『クリスマス・キャロル』- チャールズ・ディケンズ

ここからは、物語の世界にしっかり浸れる中編を3冊紹介します。一冊目は、チャールズ・ディケンズによる『クリスマスキャロル』です。
大人になると、気づけばお金を稼ぐことばかり考えて日々を過ごしがちです。私たちが本当に欲しいのは「幸せ」なのに、現代社会ではお金を持っていることが、幸せになるための分かりやすい指標に見えるので、つい「お金」ばかりを追い求めてしまうのです。
チャールズ・ディケンズ(1812-1870年)はイギリス出身の小説家で、本記事で紹介する小説家のなかでは、世界的に最も有名でファンが多いと思います。ディケンズは親の借金のために、12歳からひとり立ちして労働にいそしむことになった苦労人です。その苦しみのなかから生まれた、絵空事ではない希望や、温かい人間の心を描くことを得意としています。
『クリスマス・キャロル』は、「自分が手に入れる喜び」だけでなく、「他者に与える喜び」もまた尊いものだ、ということに気づかせてくれる物語です。この物語を読めば、いつもより他者に優しくしたいと思っている自分に、気づくかもしれません。
ディケンズは個人的にもかなり好きな部類に入る作家で、過去に『クリスマス・キャロル』を課題本とした読書会をひらいています。内容についての考察もしたので、興味のある方は参照ください。

『飛ぶ教室』 – エーリッヒ・ケストナー

物語の世界に浸れる中編二冊目は、エーリッヒ・ケストナーによる『飛ぶ教室』です。
子どもたちが過ごすクリスマスは、無垢で屈託のないもの——とは限りません。同じ学校に通う子供たちは、ひとくちに「子供」といっても、性格はさまざまで、家庭の境遇もさまざまです。やがて大人になるにつれて、その違いはますます顕著になっていくでしょうが、ひとまず今日はクリスマス。ちょっとした奇跡は起こるものです。
エーリッヒ・ケストナー(1899-1974年)はドイツ出身の小説家で、この作品が執筆されたのはナチス・ドイツの時代です。国の未来に暗雲が立ち込めるなかで、子供たちに強く生きることを願う作者の想いが、「勇気」として作中に散りばめられています。
たとえそれぞれ悩みを抱えていようとも、クリスマスは、誰にとっても特別で幸せな日です。ご自身のクリスマスも、いつもより少し、特別で幸せな日にしてみませんか。
『雪のひとひら』 – ポール・ギャリコ

物語の世界に浸れる中編三冊目は、ポール・ギャリコによる『雪のひとひら』です。
凍てつく寒さの、はるかな空の高みで、雪の結晶は生まれます。やがてゆっくりと地上に舞い降り、お日さまの光で溶けだし、長い旅がはじまります。『雪のひとひら』は、一片の雪の結晶に命を吹き込み、彼女の目線で厳しくも美しい自然を旅する物語です。
ポール・ギャリコ(1897-1976年)は、アメリカ出身の小説家です。彼の作品の魅力は、無駄なものをそぎ落とした、シンプルな物語展開でありながら、深い洞察が得られる点です。物語というのは、いたずらに長く複雑であればいいというものではありません。大切なエッセンスは、単純かつ短い語りでも伝わり、ギャリコはその腕に非常に長けています。
『雪のひとひら』は「クリスマス」がテーマではないものの、冬の情景がクリスマスにぴったりなのと、キリスト教的なテーマを内包しているため、クリスマスに読みたい本として挙げました。静謐で幻想的な冬の世界に浸りたい方におすすめです。
おわりに
今回は、クリスマスに読みたい、海外古典文学を5冊紹介しました。
いずれも気軽に読めつつ、深い感動を味わえる物語で、自分でもクリスマスが近づくたびに、読みたくなる本たちです。皆さんもどれか一冊、今年の冬の手元に置いてみてくださいね。
★自作短編にも、クリスマスを題材にした物語があるので、興味のある方は読んでみてください(以下)。3分くらいで読めます。


