昨年(2024年)から文学フリマの出店をはじめて、これまで東京、香川開催に1回ずつ出店してきました。今回ははじめて、広島開催に出店しました。その振り返りを記載します。
※文学フリマとは……自らが制作した文学作品の展示即売会のことです。コミックマーケット(コミケ)やデザインフェスタ(デザフェス)の書籍版だと思ってもらえばイメージしやすいと思います。
文学フリマ全般をめぐる状況
文学フリマの認知度は、38回目の東京開催(2024/12/1)にて、非常に高まった印象です。東京開催の会場は、37回目までは東京流通センターでした(東京モノレール路線沿い)。しかしながら、出店者数も来場者数も増えてきたために、昨年12月には、はじめてビッグサイトで開催されたのです。
ビッグサイトで開催といったら、国内で最大級のイベントの仲間入りをした、と言っても過言ではありません。ビッグサイトで開催される、有名な展示即売会には、以下のようなものがあります。
イベント名 | 主な商品 |
---|---|
コミックマーケット | 二次創作の漫画 |
コミティア | 一次創作の漫画 |
デザインフェスタ | オリジナル雑貨 |
イベント規模において、文学フリマはこれらに近づいたことになります。出版業界の不況が取り沙汰されて、10年以上になるなかで、自ら本を作り・売る人が増えている、そのような本を買う人が増えていることは、一種の逆説的な状況ともいえます。そのため、前回の文学フリマ東京は、世間の大きな注目を浴びました。
当然、出版社の方もこの状況に注目したため、前回の東京開催では、企業出店のブースが増えたようです。それに対し賛否両論あるとともに、「なぜ書店離れが加速しているのに、文学フリマの来場者は増えるのか?」ということに世間の人が関心を持ち、さまざまな考察がSNSで飛び交っていました。
私個人としては、映像コンテンツと同じ傾向を、書籍コンテンツもたどっているのだと考えています。つまり、ひと昔前までは、TVのようなハイクオリティな映像を制作するには、高額な機材や、高度な専門スキルが必要でした。そのため、資金が潤沢で、専門スキルの育成がしっかりしている、企業にしか映像コンテンツは制作できませんでした。
しかしながら、ここ20年くらいで、低予算かつ、高度な専門スキルが不要で、映像コンテンツが制作できるようになりました。すると、企業に属さない個々人が、映像コンテンツを制作するようになり、YouTubeの時代が到来したわけです(そしてTV離れが加速している)。
つまり、人間にはもともと「何かを制作したい」という欲求があって、ひと昔前まではそれを、運のよい一部の人にしかできなかったのだけれど、今は誰でもできるようになったから、その傾向が浮き彫りになって、個人製作のコンテンツがあふれているのだと思います。
映像コンテンツがたどった傾向を考えると、書籍コンテンツについても、個人で制作する傾向が強くなっていくのは、当然なのかなと、個人的には思います。エンターテインメントの趣味は、多様化が進んでいるため、TVを見ないがYouTubeを見る人がいるように、書店には行かないが文学フリマには行く、という人がいても全くおかしくありません。
なんにせよ、本を個人で制作して楽しむ、日本の同人誌文化は、おそらく世界で最も発展しており、印刷サービスやイベント開催などの環境が整っていることから、日本国外のクリエイターから羨ましがれているといいます。世界に誇れる同人誌文化なので、これからも発展していってほしいと思います。
同人誌経済をめぐる話は、以下記事に詳しく記載しています。

文学フリマ広島の概要

文学フリマ広島での注意点は、2月という季節柄、会場が寒いということでした。特に、連日雪が舞うような寒波つづきだったのと、自分の設営場所が、比較的入口に近かったため、冷たい空気が流れてきて、足元まで冷える寒さでした。来場者の方はもちろん、出店者の方も多くがコートやダウンジャケットを着用したまま、接客していました。
設営レイアウトは、香川と比べると2倍ほどゆったりしていました。通路も、背中あわせになっている、後ろとのブースの距離も、2倍ほど広くとられていました。荷物の出し入れや、出入りがしやすかったぶん、通路を歩く来場者の方との距離が遠いので、ブース立ち寄っていただく工夫が必要だと思いました。

香川のときには、何もしなくても来場者の方との距離が近かったので、通り過ぎる人みんなが、ブースを見てくれる感じだったよ。
今回の文学フリマ広島における、出店数は272でした。来場者数は1,328名で、過去最高の記録だそうです。東京での開催が有名になったことで、文学フリマの知名度が上がり、はじめて来場される人も多かったのだと思います。都市規模を考えれば当然ですが、文学フリマ香川よりも、出店数、来場者数ともに多いです。
今回の文学フリマで私は、短編小説集の『おとぎ話集Ⅰ』と、画集の『星を追いかける』の2冊を販売しました。画集は本イベントではじめて販売する新刊です。
前回からの変更点
無料配布はなし
前2回のイベントで行っていた、ポストカードの無料配布を今回はしませんでした。理由は、ポストカードがあると、画集の売り上げの阻害になるかも、と思ったからです。自分が美術展のお土産売り場を見て回るときのことを思い返すと、お気に入りの絵がポストカードで手に入る場合は、画集を買わない傾向にあるので、そのような仮説をたててみました。
名刺の制作


無料配布の代わりもかねて、今回は名刺をブースに置いてみました。せっかく立ち寄ってくれた方が、無料で持ち帰れるものが何もない、というのは悲しいと思ったからです。結果的に、自分が他のブースに挨拶に行くことや、他の出店者の方から挨拶いただくことも増えたので、そのことも含めて、名刺を作っておいてよかったと思いました。
名刺のデザインを考えるにあたり、さまざまな例を参照し、結局、とてもシンプルなデザインに落ち着きました。他の出店者の方の名刺デザインを見ていると、個性あふれる素敵なものが多くて、「自分にもこんなデザインセンスがあったらな…!」と思いましたが、これはこれで自分らしくて気に入っています。
オンライン販売を実施
今回のイベントに先立っては、はじめてBoothを使用した、オンライン販売も行いました。Boothのアカウントを作る手間なども必要なので、売上としては、リアルイベントより少ない傾向にありそうですが、なかなかイベントに行けない方のためにも、今後も実施したいなと思いました。
「オンライン販売を待っていました!」と言ってくださる方や、(あまり売れないかもと不安だった)新刊の画集を買ってくださる方もいて、本当に嬉しかったです。ありがとうございます。Boothでの販売は2/15(土)まで行っています。こちらからご確認ください。
販売の振り返り


今回は、販売する本が2種類になり、売り物として持っていかなければならない、本の総体積が増えました。そのため、事前に商品を宅急便で会場に送っていました。これを「搬入」と呼びます。搬入した本は、短編集が40冊、画集が26冊でした。そのうち、短編集14冊、画集6冊を、イベント中にお買い上げいただきました。
新刊の画集、『星を追いかける』については、短編集とセットでお買い上げくださる方が多かったです。フォロワーさんなど、活動を応援してくださる方がたくさんいらっしゃることを感じ、とても嬉しかったです。お隣ブースの「ゆづの樹」さんもありがとうございました!
なかには見本をじっくり見たあとに(たぶん全ページ見てくれたと思います)、画集単体で買ってくださる方もいて、とてもとても嬉しかったです。女性が好みそうな絵かな?と自分では思っていましたが、その際お買い上げくださったのは男性でした。とても丁寧に見ていただいていたので、「へたですね」とか言われたらどうしよう……などといういらぬ心配(そして失礼)をしてしまいました。すみませんでした。
既刊の短編集、『おとぎ話集Ⅰ』については、ありがたいことに好評いただいており、こちらを目当てにブースを訪れてくださる方が、多い印象でした。Webカタログで事前にチェックしてくださったか、見本誌コーナーで試し読みして訪れてくださっているような印象でした。
ブースに置いていた見本を、手に取る方はほとんどいなかった記憶です。よって、東京や香川で半数くらいはいらっしゃった、その場で試し読みして購入するか判断するという方は、あまりいなかったと思います。逆にいうと、その場でのお客さん寄せに失敗したことになるので、これは反省点にもなりました。のちほど詳しく記載します。
本を購入してくださった方には、以下のような方もいました。
- サインが欲しいと言ってくださった方。人生ではじめて本にサインをしました……!
- ティーンエイジャーの方。お母さまらしき方が、娘さんのリストアップした本を買ってあげている感じでした(ほっこり)。事前にWebカタログ等でチェックしてくださっていたのだと思います。若い読者の方のためにも、現金でやりとりするリアルイベントは大切にしたいと思いました。
- フォロワーさん。「ブログ楽しみにしています!」という応援の言葉をいただくとともに、差し入れなどもいただいてしまいました。古代中世インドにおける思想と言語を研究していらっしゃる、川村悠人さんにもご挨拶いただき、恐悦至極でございました。広島でしか会えない方にもたくさん会えてよかったです!
本を購入いただかなくても、ブースに興味をもって、名刺を持ち帰ってくださる方が何人かいらっしゃいました(むしろ中世ヨーロッパのブログに興味を持ってくださった方もいました)。そんな方のためにも、やはり無料でお渡しできる何かがあったらよかったな、と思いました。あの名刺ではビジネスライクすぎて、味気ないし、会話のきっかけにもなりませんよね。
次回へいかせる反省点
今回のイベントでは、次回へいかせる反省点が2つ出てきました。
反省点の1つ目は、お客さん寄せをうまくできなかったことです。香川に引き続き、販売のお手伝いをしてくれた友人が言うには、「無料配布がないとブースに近寄りづらく、通路の中心を歩いてしまいがちになる」とのことでした。
前回の香川の際には、友人はほぼ宣伝のポストカード(無料)を配る係をしてくれていて、会場を回りませんでした。しかし今回はあまり手伝うことがなかったので、友人は自身でも会場をぶらぶら歩き、オリジナリティあふれる本をたくさん買って戻ってきました。そして、「買い手として回るのがこんなに楽しかったとは!」と感動しつつ、「次回の文学フリマもすごく楽しみ!」とハマった様子です。



友達は普段あまり本を読まないけれど、文学フリマは気に入ったみたいだよ。冒頭の話に戻るのだけど、個人が販売している本のファンになる人は、やはり増えているのかもね!
友人は、買い物をするのみならず、他のブースを見ながら、参考にできる点はないか考えてくれたようで、自分を買い手に置き換えた際に、「無料配布がないとブースに近寄りづらく、通路の中心を歩いてしまいがち」という結論に至ったようです。
先ほども記載したように、無料で持ち帰れるものが名刺だけでは、立ち寄ってくれた方との会話も広がりません(お客さんとの会話が、リアルイベントの醍醐味なのに!)。そのため、次回は無料配布を復活させようと思いました。
反省点の2つ目は、自分の得意なジャンルで押しだしていないことです。
お声かけいただいたフォロワーさんに、「ブログ内容の書籍化はしないのですか?」と言われてハッとし、「もしかして、そういう需要はけっこうあるのでは……?」と思いはじめました。名刺に書く自己紹介(自分の活動領域)も、いろいろ考えた結果、最も強みがあると思われる、「歴史文化ブロガー」にしたくらいなのです。自分の得意な、歴史文化ジャンルで活動しないデメリットがないですよね。来場者の方と、歴史文化について語り合いたいし!
友人にも相談してみると、「今出店しているファンタジージャンルは、会場の人の流れを見る限りでも、他ジャンルと比べて愛好者が少ないから、歴史文化系の新刊を出して、出店ジャンルごと変えたらいいかも」との意見で、次回の出店では、それを目指すことにしました。
文学フリマの出店ジャンルには、歴史系はないため、次回出店時には「評論・研究│文化研究」にする予定です(それもこれも新刊が完成したらの話ですが)。また5月の文学フリマ東京にも、抽選枠で申し込んだので、当選したら出店しようと思います。
ブログ内容について、最終的な目標としては、商業出版を念頭に置いています(それは1-2年前から考えていました)。しかし、現段階では実績に乏しく、出版社に魅力的なアピールもできないので、少しずつ実績を作っていこうと思います。応援していただけたら嬉しいです!
購入した本


今回のイベントで、自分が購入させていただいた本は、こちらの7冊で、じつはもう全て読み終わりました!いずれのブースも、事前にWebカタログでチェックさせていただいておりました。以下に簡単に感想を記載します。
海嶌あありすけさん:『画集 海嶌天文台』『灯台探索記 鹿児島・宮崎』『ヨーロッパの麗しの人魚と水妖』
Webカタログを見ていたときから気になっていて、イベントの少し前にTwitterでフォローいただいたこともあり、当日は挨拶させていただこう、と思っていました。海嶌さんのブースは本だけでなく、栞やアクスタなどの雑貨もたくさんで、目移りしてしまったのですが、今回は3冊を購入させていただきました。
ステンドグラスがお好きとのことで、緻密な書き込みのされたカラフルなイラストが素敵でした。人魚の絵もどれもかわいらしく、メリュジーヌのイラストが一番気に入りました!
三浦永理さん『とっとり、ひとり』
東京から鳥取に移住された方のエッセイ。自分も最近、地方移住した身なので、他の方はどんな考えで移住されているのかと気になりました。また、鳥取に旅行したことがあるので、鳥取で暮らすとはどんな感じなのだろう?と気になりました。同年代の方の生活の価値観などを知れて、興味深く読ませていただきました!
白橋升『夏がはじまり終わるころ』
中編小説。私がブースに訪れた際、最後の販売品がこの本1冊だけで、もうこれは買わせていただくしか、と思い購入しました(盛況だったのですね!)。軽快な文章で、すらすらと読み進められました。読みやすい文章なのですが、言い回しの美しさもあり、そのバランスをとるのは難しいと思うので、すごいなあ、と思いました。
「いいけどサ、」など、ときどき語尾にカタカナが使用されることが新鮮かつ、いい表現!と思いました。ストーリーも章ごとにつづきが気になる展開で終わるので、中長編が書けない私は、ただただ尊敬の念をいだきました。
清水美里さん、峯本つづきさん『さがしもの』
童話調の短編集。目次を見たとき、「あるスライムの話」が一番気になりました。発想が面白く、つづきが予想できない展開なので、どのお話もわくわくしながら読ませていただきました。
柚樹ユヅさん『ゆづの樹通信』
あ行のあ・い・う・え・おのそれぞれの音から題名がはじまる5作の短編集。「イデア」「エス」といった哲学や心理学の概念が題名にあり、どんなお話なのだろう?と気になりました。また、あ行しばりのタイトルで書くというルールも、面白いと思いました。
どのお話も少し不思議な話で、これを幻想文学と呼ぶのかな?と思いました。自分では決してできない発想で物語が帰結するため、とても面白かったです。不思議な余韻が残るので、余韻も含めて作品になるのだろうと思いました。
おわりに
今回は文学フリマ広島7の振り返りをしました。
今回のイベントでは、広島でしか会えない方々とたくさん交流できたことが、いちばん楽しかったです。どこの文学フリマでも、作品を楽しみにしてくださる方や、フォロワーさんがいらっしゃるので、ゆくゆくは全国の文学フリマを制覇したいと思いはじめました。いつも応援いただき、本当にありがとうございます!
次回の文学フリマは、8/3の香川開催に出店する予定です。5/11の東京開催も、当選したら出店しようと思います。またTwitterでお知らせします。次回の出店までに、ブログ内容の新刊が出せるように頑張ります。
以上、お読みいただきありがとうございました。