クリスマスプレゼント

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はじめに

創作物語の回です。月に1回を目標に投稿していく予定です。お楽しみください。

クリスマスプレゼント

 わたしのお母さんはとても器用。靴下だって、帽子だって、ワンピースだって、何でもつくれちゃう。でもお母さんがつくってくれたものを学校に着ていくと、古くさいねって笑われるの。わたしはお母さんのことが大好きだけれど、どうしてお母さんは他の友達が持っているような、ユニコーンの柄の靴下や、大きなボンボンがついた帽子や、V字の襟ぐりのワンピースを買ってくれないんだろう、なんて思うんだ。

 少し前に、ドイツ製のぬいぐるみ屋さんがセント・マリア通りにできた。そこのぬいぐるみは女の子たちに人気で、仲良しのジェーンもエマも、クリスマスプレゼントにはそこのぬいぐるみをもらうんだって、話していた。ジェーンは白いうさぎのぬいぐるみを、エマは赤茶の犬のぬいぐるみをもらうんだって。

 セント・マリア通りは、いつもお母さんと買い物をする通りではなかったけれど、この前の休日に頼みこんで、連れて行ってもらった。道を挟んだおうちとおうちの間に、色とりどりの旗がぶらさがっていて、ショーウィンドウには聖歌を歌うからくり人形がいたり、お姫様が着るような宝石が縫いつけられたドレスが飾られていたりした。わたしがいちばんびっくりしたのは、突き当りの広場に、見たこともないほど大きなクリスマスツリーが立っていて、そのてっぺんに、太陽みたいに明るい星がついていたことかな。

 その日、わたしとお母さんは、いつもより少しおめかししていた。わたしは近所のお姉さんからおさがりでもらった赤いコートを着ていて、お母さんは結婚する前にお父さんからもらったタータンチェックのスカートを履いていた。お母さんがそのスカートを気にいっていたみたいに、わたしもそのスカートが大好きで、大きくなったらわたしにちょうだいね、なんてお母さんによく言っていたの。わたしはお父さんの顔を写真でしか知らないけれど、もしお父さんが生きていたら、わたしにも同じスカートを贈ってくれたかな、なんてよく想像するんだ。

 ジェーンとエマが話していたぬいぐるみ屋さんは、女の子たちでいっぱいだった。わたしは中に入ろうとしたけれど、お母さんはわたしの手を握ったまま動かなかった。ショーウィンドウに並んだたくさんのくまさんを眺めながら、外から見るだけで十分でしょ、なんて言った。お店のなかの女の子たちは、嬉しそうにぬいぐるみを抱えて、お父さんやお母さんに「この子もかわいいよね?」なんてきいているみたいだった。わたしは勇気をだして、「クリスマスプレゼントには、このお店のぬいぐるみが欲しいな」って言ってみた。お母さんは「ぜいたく言わないの」って言った。わたしは泣いて、「このお店のぬいぐるみじゃなきゃ、いらないから」って言った。お母さんは黙り込んじゃった。せっかくのおでかけがだいなし。

 クリスマスの日の朝、わたしは居間の隅に置かれた小さなツリーを見てびっくりしちゃった。ツリーの横に、くまさんのぬいぐるみがあったから。セント・マリア通りのお店にあったくまさんより大きくて、お顔もずっとかわいかったの。わたしはくまさんのぬいぐるみを抱きしめながら、泣いちゃった。だってそのくまさんのぬいぐるみは、お母さんがお父さんにもらったスカートと同じ柄をしていたから。

おわりに

「小説家になろう」の2022年「冬の童話祭」で「ぬいぐるみ」がテーマだったときの短編です。はじめて企画に参加したのですが、思いがけずたくさんの反響があって嬉しかった作品でした。作中に出てくる二人の女の子、ジェーンとエマはものすごく適当で、シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』の音から音合わせがいいなと思って採用しました。

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以上です。お読みいただきありがとうございました。前回の物語はこちら

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